「こうやって、このメンバーが一堂に会するのもこれが最後やと思ったら、またたまらんようになってしまって。そら、このあと、なんかの席で集まることはあるかもしれない。でも、きっと誰か、来れへん奴っているんですよ。選手、スタッフ、全員揃うのは、たぶん、これが最後。そう思って、ずっと泣いてました」

 もっとも、彼は泣いていただけではなかった。

「泣きながら、ではあったんですけど、ちゃんと31名全員のサインをジャージにもらいました」

 田中が新たに手にした“宝物”をバッグにしまい、久しぶりの家路についたころ、日本ラグビー協会は12月11日にパレードを行なう旨を発表していた。

 このメンバーが揃うのはこれが最後――田中の予感は当たっていた。12月11日、東京ステーションホテルのロビーにいた日本代表の選手は、31名ではなかった。

 何人かの外国人選手は、長く離れていた故郷へと帰国していたのである。

 12月11日の正午になった。予定通り、パレードは始まった。

 大観衆の前に姿を現した日本代表の選手たちは、おしなべて皆、笑顔だった。大会期間中、すっかり「笑わない男」としてのキャラが浸透してしまった稲垣啓太でさえ、相好を崩さずにいるのに苦労しているようだった。