「つまり、あの男にだって親がいたんだ。もしかしたら妻もな。だから尊厳の問題なんだ。あの男をあのままにしておいたら俺たちの品性が疑われる」と言って、ブレントはなんとかその死体を引き上げようとした。「俺の体もちゃんと埋葬してもらいたいもんな。どんな人間であろうとそうすべきだ」

 イラクに着いて間もなくのころの彼にとって戦争とはそういうものだった。正しいことをするチャンスがあった。

「そうしなければ、俺たちは人間じゃなくなっちまう」と彼は言った。彼の人生でもっとも素晴らしい瞬間のひとつだった。

 しかし、イラクの最後の日々は。

 1年後、爆弾がいたるところで炸裂し、どの隊列も標的になり、道路脇には火の付いたタイヤが並び、空は煙に覆われていた。

「くそったれ、くそったれ」とブレントは言い続けていた。

 住民に勝利を。戦争に勝利を。

 制御できなくなっていたので、最後の数週間になってなにもかもが静まり返ったことに驚いていた。兵士たちはこれで作戦終了だと思い始めていた。それで帰国する準備を始めていた。

 あと2週間で帰国できるというときになって、イラクの聖職者で権力者のひとりムクタダー・アッ=サドルがアメリカ軍への一斉攻撃を命じた。そして初めてブレントは、民衆を従えさせる巨大な権力を持つ人物が解き放ったものを目の当たりにした。