初めてその医院に行ったときは、かなり緊張していたと思う。だが、駅からほど近い場所にあるため、その緊張と戸惑いを味わう間もなく着いてしまった。

 扉を開けたとき、必然的に他の患者さんたちが目に飛び込んできたわけだが、想像とちがって皆、“普通”そうに見えた。少し安堵した瞬間に後ろ暗さを感じた。そう、自分も病気のくせして、一丁前に偏見があったのだ。恥ずべきは無知、である。

 まず初めに、自分の状態を問診表に書き込むのだが、これがまあ難しい。具体的に何を書いたのかは覚えていない。若かった私は、自分で自分の症状をうまく把握しきれていなかったのである。ただ、そこに大きな不安と恐怖があったのは確かだったが……。

 そして、初めて接した心療内科医は、清潔感のある中年の男性で、少し神経質そうに映った。声と表情が一致しない印象を受けたのが若干、引っかかりはしたが、医者というのはだいたいそんなものかとも思っていた。