12月10日にノーベル賞授賞式が開催される。ジャーナリストの池上彰氏は「今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさん」という。以前からカリコ氏を取材してきた増田ユリヤ氏がカリコ氏の素顔を明かした。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)
10年かかるワクチン開発を
半年で実用化
池上 今年も12月10日にノーベル賞授賞式が開催されます。今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさんです。メッセンジャーRNA(mRNA)を使った新しい手法で、新型コロナワクチンの開発に貢献しました。
増田 通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ、とその功績が評価されました。
mRNAは、体の設計図であるDNAの情報をコピーして細胞内に届ける役割を担っていて、こうして届けられた設計図のコピーを基にタンパク質が作られます。コロナウイルスの表面の突起もタンパク質でできているため、その情報を人工的にコピーして作ったのがmRNAワクチンです。
アイデア自体は以前からあったのですが、mRNAが体内に入る場合に起きる炎症反応を抑えることができず、専門家の間では「実用化は無理だろう」とみられていました。
池上 挫折し、諦めた研究者も少なくなかったとか。
降格処分や
研究資金の打ち切り
増田 カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました。実用化につながる論文を共同研究者のドリュー・ワイスマン教授と発表したのが、2005年。
その後、カリコさんは独ビオンテックに移籍し、ジカ熱ワクチンやインフルエンザワクチンの開発に携わっていたので、コロナワクチンも半年で実用化できた。大学で研究した蓄積と、製薬会社での実用化の経験が奏功したのです。
池上 ビオンテックはドイツのトルコ系移民が設立した会社で、カリコさんのようにハンガリーから米国に渡って研究を続けてきたような優秀な人たちを受け入れています。
増田 カリコさんはビオンテックに移籍して、ハンガリー時代に一緒に研究していた人たちと再会しています。信念を持った優秀な人たちを集め、研究部門以外のスタッフも研究者でそろえています。
池上 増田さんはカリコさんに以前から取材されていますね。