取引先であるドライブインなどの立場に立った販売戦略を徹底的に練ったこの時の経験が、のちにマクドナルドの経営に着手した際におおいに役立ったのはいうまでもない。クロックは飲食業に携わったことがなかったにもかかわらず、誰よりも外食産業の経営や販売戦略に通じるようになっていたのである。

世界を見据えたスーパーセールスマン

 やがて紙コップ販売の仕事を通じてクロックはある製品に出会う。マルチミキサーだ。得意先の一つであるアイスクリーム屋が5本軸でパワフルなミキサーを使ってミルクシェイクを作り、売り上げを伸ばしていたのだ。

 クロックはいつもの彼のセールス手法を用いて、このミキサーを使って紙コップの売り上げを伸ばせないものかと考えた。

 だが、思案していくうちにクロックはマルチミキサーを紙コップの拡販の手段として用いるのではなく、ミキサー自体を販売していこうという結論に達する。スピーディーで高性能なマルチミキサーにビジネスの可能性を感じたのである。こうしてクロックはマルチミキサーの独占販売権を得て会社を設立し、全国に製品を売り歩いていくのだ。

 第2次世界大戦が始まるとミキサーの部品の一部が調達できなくなり一時は廃業寸前まで追い込まれたが、戦争が終了すると状況は一変する。戦後の好景気とクロックの敏腕なセールスが相まって販売数は急速に伸びていった。