アメリカ大統領選の結果が
今後のイランに与える影響
11月6日、米国の次期大統領に共和党のトランプ氏が選出された。
イランは選挙戦の期間中、米政府機関や大手IT企業にサイバー攻撃を仕掛け、世論操作を目的とした偽情報の拡散や、個人情報の不正取得などを組織的に行っていたとされる(イラン政府は事実無根と否定)。
イランとしては、核開発を制限する多国間合意から離脱し、対イラン経済制裁を復活させたトランプ前大統領の再登板だけは何としても阻止したかったはずだ。
反対に、核合意の再建を模索した民主党政権がハリス氏に引き継がれた場合には、制裁解除への望みをつなぐことができたため、イランにとっては好都合だった。ペゼシュキアン大統領とアラグチ外相という協調外交派のツートップにより、イラン側の対話の窓口も開かれていた。
一方、イランの一般国民はおおむねトランプ氏の勝利を歓迎している。たしかに、氏が就任すれば、対イラン経済制裁が一層強化されることはほぼ確実であり、そうなれば国民生活も大きな影響を受けるだろう。しかし、国民にとってはそれ以上にイランの現体制が国際的に孤立し、その崩壊が早まることのほうが重要なのだ。ここにも「敵の敵は味方」という論理が働いている。
パレスチナをめぐっては今後、トランプ氏がネタニヤフ首相を強力に支援し、イランと連帯するイスラム組織が壊滅的な打撃を受ける可能性がある。
だが、すでに述べたように、イスラム組織の勝敗はもともとイラン国民の関心事ではない。彼らが米国に求めるのは、どのような形であれ一日も早く戦闘を終結させ、イランが戦争に巻き込まれる危険性を取り除いてくれることだ。トランプ氏には、アブラハム合意(2020年)をまとめ、中東和平に貢献した実績もある。
氏はかねてより、「ディープステート」を解体することで世界平和を確立し、米国の軍事費を抑制することを主張してきた。たとえそれが陰謀論であっても、終わりの見えない紛争の渦中にあるイラン国民から大いなる共感を持って受け入れられているのは確かだ。
もっともトランプ氏の大統領就任まで、まだあと2カ月以上残されている。イランはすでに、10月26日の攻撃を受けて近日中にイスラエルに報復すると宣言しているため、それまでに中東情勢が大きく変わる可能性はある。
そうしたなかでイラン国内に今後どのような世論が形成されていくのか。情勢が流動的な今こそ、既成メディアの報道やイラン政府の公式見解だけに依拠しない、多角的な視点が求められている。