「ハリスは、物価高を抑えるって言ってるけど、では、なぜ、政権の中枢にいる今、それができないでいるの?」
「俺たちが望むのは、イスラエルやロシア、中国にモノが言える強い大統領なんだよ。彼女にそれができるかい?」
これは事前に、デトロイト(ミシガン州)やニューヨークの投票所で聞いた声だ。ハリスの敗北は、現職の副大統領であるマイナス面と、主に黒人男性層に根深い女性蔑視の感情(ミソジニー)を払拭(ふっしょく)できなかった結果なのだ。
その意味で、ハリスは、バイデン氏撤退に伴う急ごしらえの候補ではあったものの、基本的には「弱い候補」だったと言うべきだろう。
「アメリカは民主党政権でダメになった。経済は低迷し、今や犯罪の巣窟だ。その原因を作った1人がハリスだ。この状態を直そう。このままだとアメリカは滅びてしまう」
事実もあれば虚偽もあるトランプ独特のレトリックが、全米の主なメディアも予想できなかった圧勝につながったと考えていい。
アメリカに誕生する
トランプ独裁政権
今回の選挙で、共和党は、ホワイトハウスの奪還に成功しただけでなく、条約の批准や人事の承認権を持つ上院でも過半数を得ることになった。これまで過半数の議席を持っていた下院でも勢力を維持する見通しだ。
8年前は総得票数でクリントン氏を下回り、4年前はバイデン氏に敗れたトランプ氏だが、今回は7つの激戦州で全勝したばかりか総得票数でもハリス氏を上回ったことで自信を深めたに相違ない。
「政治的な勝利。見たこともない勝利だ」
11月6日、別荘があるフロリダ州で高らかに勝利宣言したトランプの言葉がそれを物語っている。
大統領としてすでに1期務めたトランプに3期目はない。その1期目では共和党主流派との対立もあったが、今の共和党は「トランプ党」だ。この先、「良いレガシーを残し、次の大統領も共和党の後輩に…」と思わない限り、独裁的に好き放題ができる環境が整ったことになる。
独裁者と言えば、中国の習近平総書記、ロシアのプーチン大統領、それに北朝鮮の金正恩総書記が代表格だが、トランプもまた同様の権力を手にしたと言っていい。筆者は、どちらかと言えばトランプの勝利を歓迎しているが、この点は、日本にとって脅威である。