大統領選の「筋書き」を
変えた2つの出来事
大統領選討論会での「大失敗」による民主党内の撤退圧力の高まりを受けて、バイデン大統領は7月21日、選挙戦からの撤退を表明。同時にカマラ・ハリス副大統領を全面的に支持し、後継者として推薦すると述べた。すると民主党の連邦議員や州知事らが次々にハリス氏支持を打ち出し、党は一気に団結した。
その前の数週間、バイデン氏が撤退要求を拒否し続けたことで、議員同士の対立が起こり、支持者の間にも「トランプ氏に勝てないのではないか」という無力感や絶望感が漂い始めていた。しかし、その雰囲気を一変させたのが、バイデン氏の撤退とハリス氏への支持だったのである。
この発表から24時間以内にハリス氏の選挙陣営には8100万ドル(約124億円)超の新たな寄付が集まった。1日当たりの寄付金としてはどの候補者よりも多い最高額だったという。
59歳の黒人女性でアジア系のハリス氏は、民主党のさまざまな支持層にアピールできる。これからより精力的な選挙運動を展開するだろう。
一方、トランプ前大統領の共和党を団結させたのも1つの衝撃的な事件だった。トランプ氏は7月13日、ペンシルベニア州バトラーでの選挙集会で銃撃され、九死に一生を得たが、誰もが驚いたのはその直後の行動だった。
トランプ氏は右耳から血を流しながら、拳を空中に突きあげ、「ファイト(戦え)!ファイト!」と繰り返し叫んだ。この映像が連日メディアに取り上げられたことで、トランプ氏は自身を「強いリーダーの象徴」として多くの人の心に焼き付けることに成功したようだ。
その2日後、トランプ氏はウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国大会に向かう飛行機の中で記者団に対し、「私はここにいるはずではなかった。死んでいるはずだった」と述べ、自身の指名受諾演説の内容を変更することを示唆した。
そしてトランプ氏は「米国の半分ではなく、全ての人のための大統領になる」と述べ、国民に融和と団結を呼びかけた。演説の後半にはいつもの攻撃的な口調に戻り、バイデン大統領や民主党を激しく批判したが、銃撃事件を受け、共和党は結束を強めているように見えた。
共和党大会ではトランプ氏と予備選を激しく戦ったニッキー・ヘイリー氏らが支持を表明し、党の団結を呼びかける演説を行った。
このように両党の候補に起きた2つの出来事が大統領選の情勢を大きく変え、その勝者を予測するのは一層難しくなった。ただ、1つだけはっきりしているのは、もしトランプ氏が返り咲いたら、米国にとって「大惨事」になる可能性が高いということだ。それを止めるには、ハリス副大統領がトランプ氏を倒さなければならないが、彼女にはたしてそれができるのか。
そのことについて論じる前に、トランプ氏は再選されたら、何をしようとしているのかを明らかにしよう。