ノジマは「情報弱者に優しい存在」として
独自のポジションを築いている

 携帯ショップを訪れる消費者のニーズも同じです。そもそもどのキャリアも一見お得に見える複雑な割引プランを提示しているので、どれを選べばいいのか難しいのです。

 キャリアショップに行けば最初からドコモショップならドコモ、ソフトバンクのショップならソフトバンクを選ぶしか選択肢がなくなります。本当は消費者が頼りたいのは中立的に「今はここがお得ですよ」と教えてくれるショップで、ノジマはそのニーズも取り込んでいます。

 そこでVAIOですが、今では法人需要を中心にビジネスを展開しています。

 実はわたしの会社でもVAIOを使っているのですが、ハードウェア的には軽くて薄いノートパソコンの先駆けです。カーボングラファイトで極限まで軽くしたパソコンは以前はVAIOの専売特許のようなところがありましたが、実は今ではどのメーカーでも同じように軽くて頑丈なノートパソコンを販売しています。

 ですから個人相手のビジネスではVAIOの差異化は難しいのですが、法人の場合は違います。あたりまえのことですが法人という組織の中には一定数、パソコンの情報弱者が存在します。イメージとしては中年の男性管理職に多いように思えますが、実際はパソコンが苦手だけど仕事はできる社員のプロファイルはさまざまです。

 だから、VAIOにもノジマ流で生き残る道があるのです。

 このノジマのオワコン中心の買収戦略について、もうひとつ合理的な点があります。買収当初からノジマでは買収によるシナジーを重視していないのです。

 普通の戦略家が考えた場合、ノジマがVAIOを買収したということは今後のシナジーとして、たとえばノジマ専用モデルを開発してノジマ店頭で販売するといったアイデアが出てきます。

 ないしは携帯販売のコネクシオとインターネットプロバイダのニフティそれぞれの法人営業部門を使って、VAIOの売り上げを伸ばそうという机上の戦略を立案しがちです。

 そして戦略の専門家として断言すると、そのような戦略が成功する確率はそれほど高くありません。

オワコン集団でも勝てる!
ノジマの買収戦略には「合理性」がある

 ノジマ専用モデルが売れずに在庫の山になってしまったり、ノジマグループの法人営業部隊はグループ内の他社の商品を売る暇などまったくなかったりで、グループのシナジーをあてにした拡大戦略が失敗するケースが往々にしてあります。

 今回、ノジマの買収ではVAIOに役員も派遣しませんし、ましてや経営に口を出すこともしない様子です。

 要するにノジマがVAIO買収を決めたのは、ファンドの日本産業パートナーズの傘下でVAIOの業績が復活したからでしょう。

 2015年には大幅な赤字を出していたVAIOは現在では売り上げはかつての4倍以上に増え、コロナ禍と半導体不足の影響があった2022年を除いて毎年安定的に利益を生めるようになっています。

 こうした企業買収で成長するノジマは、VAIOが加わる前の2024年3月期時点ですでに売上高7613億円、営業利益306億円と堅調です。そして業績面では過去10年、安定して高いレベルの黒字を続けています。

 オワコン集団であっても、市場の中で存在感があり、しかも自立できているブランドであれば消費者をきっちりと掴むことができ、残存者利益を上げ続けることができる。

 ノジマの一見すると異次元な買収戦略には、このような一定の合理性があるのです。