それで、事前に彼の成績や書籍を徹底的に調べて読み込んだんです。そこで思ったのは、私が付け焼き刃の知識で監督と野球談義をするのは不可能だなということ。一方で落合監督の著書を読んでみて、世間には一匹狼だと思われているけど、実は組織においての管理職の役割をわかってる人だなと感じたんです。そこで私は野球の話よりも、監督像、管理職として部下をどう育てるのかという点に焦点を当てて、取材することにしました」
各メディア、年に1、2度しかないという落合監督との貴重な対談の機会をより良いものにするために、木場氏は、まず誰よりも早く現地入りすることを決めた。
「13時から試合だったので当日の昼頃、沖縄に着けばいいとTV局からは言われていました。でも私は選手の皆さんが集まる朝9時にはグラウンドにいて、練習を見て、試合を見てからインタビューに臨みたいと思いました。よりよいインタビューのためにも、私の存在を落合監督に印象付けたくて、自腹で沖縄に前泊したんです(笑)。また、落合さんは甘党だとリサーチしていたので、どら焼きを買って朝一番で監督マネージャーに渡しておき、試合終了後に落合さんが通ったら『今日のインタビューお願いします』と一言ご挨拶できるよう、建物の入り口でずーっと張って待っていました」
木場氏の下準備は功を奏し、結果的にインタビューは成功した。落合監督は終始、機嫌よく予定の10分を超えて30分も話してくれたという。
「努力は見せないほうがいいという日本人的な美学もありますが、見せなければ気づかれません。ビジネスで聞き手に回る際も、受け身になりすぎずにアピールすることは必要ですし、専門家に対して、自分なりの視点で向かい合うことは非常に大事だなと痛感する出来事になりました。どんなことに対しても下準備を怠らず、その上で戦える土俵を自分なりに考えていくと、対話は自然と盛り上がるのではないかと思います」
とはいえ、ここまでのことを誰もが事前にできるかと言うと、難しい部分もあるだろう。対話に苦手意識がある人は、どんなことから意識して変えていけば良いのか?
「最初はオウム返しでいいと思います。たとえば『寒いですね』と言われたら『確かに寒いですね』で良いし、『最近こういった課題があるんです』と打ち明けられたら『確かにそれは難しい課題ですね』と相手が言ったことをほんの一言「確かに」を添えて肯定的に復唱する。無理に面白い返しを考えたり、独創的なコメントをする必要はありません。その上で、感情をしっかり乗せた相づちで相手が気持ちよく話せる環境をつくる。そこを意識するだけでも、相手の反応は大きく変わるのではないでしょうか」