「ウチではデータドリブン人事なんて無理!」と考える前に

――とはいえ、データドリブンな人事施策を実行できている企業は、日本ではまだ多くはないように思います。実際のところ、海外と比較してどんな状況なのでしょうか?

 そうですね。たしかに日本では、統計分析をガンガンやれるような人材が人事チームに加入する動きは、まだあまり見られません。また、企業側でも「データ分析ができる人材をHR部門に配属しよう」という意識は低いと思います。

 他方、これがアメリカになると状況はかなり違います。

 たとえば、私が専門としているリーダーシップ研究や組織心理学の分野で博士号(Ph.D.)を取った人だと、じつは大学で教授職を目指すパターンはけっこうなマイノリティなんです。

 7〜8割の人は、企業の人事部門やHR系のコンサル、政府関連の仕事などに就職します。私のアメリカ時代の研究仲間たちのなかにも、GoogleやIBM、3M、さらには米軍なんかで人事の仕事をやっている人たちがたくさんいますよ。そのほうが大学に残るよりもかなり給料がいいですし……。

 要するに、Ph.D.を持っている人が産業界に入っていけるようなパイプができているんですね。

 ですから、向こうの一般企業だと、「うちの人事部長は、HRの博士号を持っています」とか、「私は経営学と統計学の両方で修士を取りました!」みたいなケースも珍しくない。データドリブン人事のためのグランドスキームを自分で立てられる人材が、ゴロゴロいるような状況なんです。

“データドリブン人事”とは何か?外部に丸投げせず、自前で実現する方法――早稲田大学・村瀬俊朗さんに聞く

――そういう話を聞いてしまうと、日本では、まだ当分は難しそうだなという印象を受けますね。

 そんなに悲観する必要はないと思います。やりようはいくらでもありますし、実際にデータドリブンな人事施策を行っている企業は、日本でも出てきていますから。

 また、分析のためのデータは、どの企業にも十分すぎるくらい蓄積されています。イチからデータをわざわざ集め直さなくても、価値あるデータは社内にいくらでもあるんです。

 人材の属性や成績のような定型的なものだけでなく、社内でのいろいろなやりとりや行動などの足跡(いわゆる「デジタルトレース」)も、立派な分析対象になり得ます。私自身、サポートさせていただいている企業さんからは、社内チャットツールで送られたDMのデータをいただくことすらあります。

 要するに、データ分析のための素材は、すでに手元にある――。

 あとは「やる!」と決めて、「どうやるか?」を考えていくだけ、ともいえるんです。