“データドリブン人事”とは何か?外部に丸投げせず、自前で実現する方法――早稲田大学・村瀬俊朗さんに聞く

近年、企業内に蓄積されたさまざまなデータを活用し、より客観的な意思決定を目指すピープルアナリティクスなど、「データドリブンな人事施策」への注目が高まっている。ただし、その実践には課題も指摘されている。たとえば、人事チーム内に「データ分析の専門家」がいなければ、多くの企業はその作業を“外注”することになる。しかし、業者が提供するサーベイや分析ツールを活用しても、「分析結果を眺めて終わり」になってしまうケースも少なくないのだ。「本当に意味のある分析をしたいのなら、日本企業は“データドリブン人事の内製化”を目指したほうがいい」――そう指摘するのは、さまざまな企業とコラボレーションしながら、リーダーシップやチームワークの研究を日米で行ってきた早稲田大学准教授の村瀬俊朗さん。データに基づいた人事施策を「素人集団」が自前で実現するにあたっては、いったいどんな思考法が必要になるのか――? 具体的な成功事例とともに、そのコツを聞いた。(聞き手/藤田 悠[THEORIA, Inc.] 、撮影/梅沢香織)

御社の人事に「データに基づいた学習」はあるか?

――まずは、いま「データドリブンな人事施策」が求められている理由について教えてください。

 人事の世界は、昔からのルーティンや経験則に基づく判断がとくに多い領域です。

 典型的なのが「高学歴のほうが優秀」とか「文化系よりも体育会系のほうがいい」といった思い込みですね。

 しかし、いまはいろいろなデータが企業内に蓄積されるようになっています。

 人事領域で自分たちがやってきたことは果たして正しいのか、本当に自分たちが考えているとおりになっているのか、ズレていることはないかをデータに基づいて検証し、組織をよくしていこうという流れが生まれています。

 その典型が、従業員の属性や適性検査の結果、さらには人事評価や行動など、収集したさまざまなデータを分析して、組織の課題解決につなげる「ピープルアナリティクス」の考え方です。

 たとえば、アメリカの警察組織を対象にしたリサーチだと、犯罪者と相対したときには、女性警官のほうが男性警官よりも怪我が少なく、逆に検挙率は高くなるという分析結果が出ています。

 腕っぷしに自信がある男性警官は、どうしても力で解決しようとしてしまうので、そのプロセスのなかで怪我をしやすい。

 その一方で、女性警官は力に頼らず、「説得する」というオプションを選択しやすいので、怪我をする確率は低くなる。相手も冷静になれるので、結果として検挙につながりやすかったりするのです。

――人のパフォーマンスを客観的なデータに基づいて見ることで、「力の強い男性のほうが優秀な警官になれる」といった先入観から自由になれるわけですね。

 そのとおりです。人事の世界には、こうした思い込みがまだまだたくさんあるので、是正していける余地がある。そのときには、データによる検証が武器になるわけです。

 ただし、こうしたリサーチは「とにかく一回やればいい」といった類のものではありません。データを集めながら、「結局、どういう施策をやれば、パフォーマンスに直結するのか?」などを繰り返し検証し、組織のシステムそのものを改善していくサイクルを回す必要があります。

 データをいくら集めて分析しても、それが「組織の学習(Organizational Learning)」につながらなければ意味がないということです。

村瀬俊朗(むらせ としお)

早稲田大学 商学部 准教授

1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)をつとめた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。「心理的安全性」の提唱者であるエイミー・C・エドモンドソン(ハーバード大学)の著書『恐れのない組織』(英治出版)でも解説者を務め、日本国内で「心理的安全性」の概念を普及させてきた第一人者。

 

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