江戸時代までの日本人は、人と人との「思いやり」や「つながり」に豊かさを感じ、多様性を大切にしていたと思うんです。しかし、明治になって外国から「個人」という概念が持ち込まれたことによって、いつしか人生の価値は「個人の夢をいかに実現するか」にシフトしていき、「自分さえ良ければいい」という発想になっていく。

 お金持ちでありたい、社会に対する影響力を持ちたい、地位も名誉も欲しいとなると、私利私欲ですべてが動いていく……僕はそれが「失われたもの」と思っています。

 加納さんの絵は、この「現代社会にぽっかりと空いた穴」を埋めてくれるような存在なのです。卑近な言葉で言えば、「世のため人のため」とか、「お天道さまが見てる」というような視点……僕は、それこそが加納さんが表現したい「無常」じゃないかなと思っています。

 昔の近江商人には「三方よし」(売り手、買い手、世間の3つすべてにとって良い商売を心掛けるべし、という考え方)の教えがありますが、現代ビジネスの世界でも、重要な経営判断を下す際には、利己的ではない、公共的な思想は不可欠です。トップリーダーたちは、加納さんの絵にそんなことを感じているのではないでしょうか。

ビジネスリーダーに共通する
世の中の景色を変えるアート思考

 また、僕自身もそうですが、ビジネス界のトップリーダーたちには、多かれ少なかれ「世の中をこんな景色に変えたい」という漠然としたイメージがあると思うんです。その「理想の景色」が、加納節雄の作品に描かれているからかもしれませんね。

 今の若者たちに、自分が好きなものを思いっきり「好き」と言える居場所を作ってあげたい。もっと自信や勇気を持って何かにチャレンジしてほしい。ひいては日本が、世のため人のためにみんなが動いていくような世界をつくりたい……社会に大きなインパクトを与える企業の経営者たちは、誰もがこうした理想を胸に抱いて仕事をしています。

 加納さんの作品には、彼らの心を揺さぶる力が宿っていると信じています。今後も、彼の作品を、最良の形で世の中に紹介していきたいですね。