実は、僕自身が2006年に「ニコニコ動画」という動画共有サービスの立ち上げに関わった動機も、多くの人に表現活動の場を提供したかったからなんです。価値観が細分化、複雑化、多様化して「好きなものを突き詰めれば突き詰めるほど孤独になっていく」人たちを救いたかった。
自分が好きなものを動画で公開することを通じて、共感してくれる人たちと出会い、「精神的な安心・安全」を感じることができれば、彼らはもう一度リアルな世界に出て、「人と会いたい、つながりたい」と思えるんじゃないかと考えたんです。だから、加納さんの言葉に深い共感を覚えました。
もう1つは、タイトルや画題がないこと。その理由について加納さんは、「自分は『無常』を描いているから」と言っています。タイトルや画題を決めた瞬間に、その絵は有限になってしまうと言うんです。
絵を見る人が抱いている感情、いま置かれている境遇、未来に対しての希望や落胆、 あるいは知識、経験、心情、宗教などの情報と絵が結びつくことで、絵の意味は無限に広がっていく……常に流れていくものだから、ある人が同じ絵を次に見たときには、おそらく違う見え方になる。加納さんはこれを「無常」と呼んでいます。作品はアーティストのものではなく、観る人のためのものである……この信念にも共感しました。
ビジネス界の巨人たちが
加納節雄のアートに心を奪われる理由
――横澤さんを含め、ビジネス界のトップリーダーたちが、加納節雄の作品に魅了されるのはなぜだと思いますか?
横澤 「世界観に己がない」からではないでしょうか。もちろんあの絵は加納節雄が描いているのですが、そこに加納節雄はいないんです。己がないというのは「自己犠牲」という意味ではなく、「相手も私であり、私も相手である」ということ。そこには伝統的な日本の美学があるんですよ。