現職の総理大臣が、誰かの仕掛けたテロにより、あらゆる国民と入れ替わる!? 10月から放送中のテレビドラマ『民王R Inspired by 池井戸潤』(テレビ朝日系列・毎週火曜21時~)は、作家・池井戸潤氏の小説『民王』の世界観をベースに生み出されたオリジナルストーリー。奇抜なシチュエーションながら、闇バイト問題、ひとり親家庭の子育て、若者の生きづらさなど、毎回、現実社会の課題にスポットを当て、鋭く切り込んでいる。30代、40代の若手が主力となって制作するこの作品が世に問おうとしていることとは? まもなく迎えるクライマックスを前に、プロデューサー・飯田サヤカ氏に聞いた。(ドラマプロデューサー 飯田サヤカ、構成/大谷道子)
総理は「くじ引き」で
選ぶのが正しい?
――今さらではありますが、タイトルの『民王R』の「R」の意味は?
飯田サヤカ氏(以下、飯田) 9年ぶりのドラマ化にちなんで、「リニューアル」や「リターン」「リブート(再起動)」といったところから単純に思いついたのですが、考えてみると、作品名や商標につける「(R)」がありますよね。その意味では、池井戸潤先生の小説『民王』をもとに制作しています、というクレジットにもなるんじゃないかと。冒頭、菅田将暉さんが民神(たみしん)というキャラクターとして行うナレーションの「~で、あーる」という語尾にも呼応させています。
――9年前にドラマ化された『民王』は総理・武藤泰山が息子と入れ替わる物語でしたが、「Inspired by池井戸潤」として新しく生み出された今回は、年齢も属性も異なるさまざまな国民と入れ替わる1話完結の物語に。この展開はどのように発想されたのでしょう。
飯田 池井戸先生からは、「口は出さないから、『民王』という素材で遊んでいいよ」という寛大なお許しをいただいていました。ただ、最初にプロットも書いてくださっていて、国のトップである泰山がある一国民と入れ替わり、労働者の生活を体験することによって日本の経済問題や貧困に向き合っていく……という、一種『王子と乞食』的なアウトラインでした。
しかし今、ひとことで貧困といっても、若者の貧困、女性の貧困、子どもの貧困など、さまざまなパターンがあり、同じように多種多様な孤独が存在しています。それを属性ごとに切り分けていくと、いくつものストーリーができるんじゃないか?と。そういったことで、1話完結の連作短編のような筋立てが生まれたんです。
――政治の場を舞台にした物語だけに、世の中で今、起こっていることをテーマにしたいと。
飯田 はい。もうひとつ、前作のドラマ『民王』から政治監修を担当してくださっている元政治部記者の方から教えてもらった、「くじ引き民主主義」という学説がヒントになっています。さまざまな社会課題を解決するにあたって、市民の代表者を、集団からくじ引きという無作為で抽出した人たちに担ってもらうという考え方で、日本では裁判員制度がそれに近い仕組みになっています。
政治家は、「地盤・看板・かばん」のようなある程度のお金や権力をすでに持っていて、競争に勝ち抜ける人でないとなかなかなれないのが現状。2世、3世も多く、結果、市井の人々との間に分断が生まれがちです。それを解消するために、政治家をくじ引きで選んでみたらどうだろう?というアイデアの究極のかたちが、総理と全国民の入れ替わりなんじゃないかと。
毎回、オープニングのムービーでガチャガチャの中から入れ替わる人が登場するという仕掛けも、その象徴です。政治家ってちょっと特別な存在になりすぎていませんか、本当は皆が「民」の「王」であるべきなんじゃないですか? と。