若い制作陣が、
「今」への葛藤と希望を込めて
――あのちゃん演じる公設秘書・冴島優佳との入れ替わりを皮切りに、闇バイトに手を染めた青年(第2話)、ひとり親家庭の5歳児(第3話)、生死の境をさまよう老女(第4話)と、次々入れ替わる泰山。遠藤憲一さん渾身(こんしん)の“なりきり”が話題となっています。
飯田 実年齢が63歳の遠藤さんとの入れ替わりを面白く表現できるように、対象は年代や属性をバラして選びました。毎回、とても過酷な役柄を課してしまって申し訳ない……と思いつつも、「演技の引き出しが増えていくようでうれしいし、楽しいよ」と言って熱演してくださる遠藤さんには、本当に足を向けて寝られません。現場ではあのちゃんや、書生・田中丸一郎太を演じる大橋和也さんとも同じ目線で仲よく話されている、懐の深い方です。
――11月19日に放送された第5話は、繁華街にたむろする思春期の少年と入れ替わり、「トー横キッズ」を想起させる青少年たちの孤独と苦悩をリアルに描いた回でした。これまで同様、現代の社会問題を色濃く反映していますが、テーマはどのように設定しているのでしょうか。
飯田 今回参加している監督や脚本家は、最年長が40歳という、夜9時台のドラマにしては比較的若い顔ぶれ。皆で「最近、何に注目してる?」と話し合う中で、さまざまなテーマを検討しました。
第5話は最年少の30歳の脚本家が手がけた回で、ドキュメンタリーに近い撮り方をしていることもあって、我々としては冒険でしたが、若い世代をはじめ、熱量を受け止めていただけたのではないかと思います。
また、今回のメンバーには共働き家庭で子どもを育てているイクメンが多く、そうしたこともあってか、働きながら子育てする苦労はよく話題に上りました。山内圭哉さん演じる公安刑事・新田理(さとる)の様子にも反映されていますね。これから放送される第7話(12月3日放送予定)も、出産と仕事の両立に悩む女性の物語です。
――とくに力の入ったテーマは?
飯田 ドラマの作り手である私たちの実感から生まれたのは、次回(11月26日)放送の第6話。いわゆるキャンセル・カルチャーを扱った回です。
当て逃げ事件を起こして謹慎中のお笑い芸人がSNSやネット上での中傷に悩まされるのですが、昨今、番組制作をしている私たちも炎上を経験することが増えていて。芸能人や著名人の個人の炎上とは違いますが、やはり番組の炎上というのも非常につらいものなんです。落ち込みますし、エコーチェンバー効果で、すべての人が自分たちを批判しているんじゃないかと恐ろしくなったりもして……。
でも、世界はネットだけで構成されているわけではないし、リアルの世界には応援してくれる人もいて、そもそも実は大半の人が無関心だったりもするわけで(笑)。私よりも若い年代のスタッフのほうが、そうした感情の受け流しに慣れていて、タフだなぁと感じています。
――泰山と入れ替わる相手は必ず何らかの挫折を経験する。でも、そこから泰山とともに立ち直ろうとする姿からは、ポジティブなメッセージが感じ取れます。
飯田 失敗してもやり直せる、そうした社会にならないといけないよねということは、よく制作チームでも話しています。とくに今の30代、40代の人たちからは、今は一度道からそれると挽回するのが大変だという声をよく聞きます。それゆえに冒険がしにくいのですが、挑戦のできない社会に発展はないじゃないですか。それではいけないよねという思いは、常に持っています。