スイスで安楽死を決心、「楽しむことを最優先に」動画を配信

 彼女のもとには、動画を見た人たちからさまざまなコメントが寄せられた。

「一人っ子なんでしょ。年老いた親を置いて先に逝くなんて親不孝」

「楽しいことばかり目論まずに、親への恩返しを考えるべきだ」

「あなたの心の平和を取り戻すために、仏を信じることをおすすめするわ」

「ぜいたくなことばかり言ってるんじゃない。苦労を知らないだけだ」

「同じ病気で苦しんでいる人たちはたくさんいる。そんな人たちに死ねと言ってるの?」

 ずっと「前向きなことだけを伝えたい」と動画をアップしてきた沙白さんは、見知らぬ人たちから受けたこういったコメントに「そんなコメントをくれるのはあなただけじゃない、五万と届いているわ」と動画で返した。「でも、あなたたちはわたしや両親や家族のことを知らない。わたしの病気のことも知ろうとしない。なにも知らないのに自分勝手なコメントは控えてちょうだい」と厳しいメッセージを発している。

「わたしの病状が悪化したときのことを、あなたたちは想像できる? ただひたすら脱力状態でベッドに横になり、食事も排泄もすべてそこで済ませるのよ。そんな時の動画は配信しないけれど。いや、動画を撮ろうにもそんな気力なんてまったくない状態。ひたすらベッドで横になり、口に運ばれるものを流し続けるだけ。そんな状態で、どうやったら年老いていく親に恩返しができるというの?」

 確かに、動画の沙白さんはいつも化粧をしてきちんと髪をセットして、アクセサリーを身に着けたおしゃれな姿でカメラに向かって語りかけていた。その背景の自室は、きっと動画を見ている若者たちのほとんどの自宅全体よりも広いはずだ。

「そう、わたしは恵まれている。上海生まれで上海育ち、父親はきちんとした教育を受けた知識人で、以前の自宅は地域開発のために徴用されて代わりの家を手に入れることができた。家は2軒持っている。でもそれだけで、わたしのことを品評しないで。もちろん、恵まれているから海外での安楽死を手配することができた。でも、わたしは同じ病気の人たちや難病の人たちにみんな同じことをしろというつもりはさらさらない。これはわたし自身の判断であり、選択であり、わたしだけの方法なの」