日本企業では失敗を恐れる傾向があるが、起業大国アメリカでは、むしろ失敗した起業家は投資家から高く評価を受けるのだという。失敗がきっかけで生まれた数々のヒット商品の例を引き合いに出し、「起業家精神」の本質についてアメリカのバブソン大学で教鞭を取る山川恭弘氏が語る。※本稿は、山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
バブソン大学で実施される
失敗を“祝福”するイベント
意外に思うかもしれませんが、アメリカの投資家(インベスター)は失敗した起業家を評価します。彼らが聞くことは、なぜ失敗したのか、何を学んだか、そしてどう改善して次に生かしたのか、です。ここでは「失敗した起業家」ではなく「経験を積んだ起業家」と認識されるのです。むしろ、失敗していない初めての起業家のほうが、厳しい目にさらされます。経験値がないわけですから。
What was the “value” in the failure?
失敗には必ず価値があります。だから、バブソン大学では「MVF(Most Valuable Failure)」として、壮大なイベントを実施して、失敗を祝福します。もう、アカデミー賞のレッドカーペットばりに「もっとも過激な方向転換だったで賞」などと、茶目っ気たっぷりに表彰します。表彰されたほうも壇上で誇らしげに自分の失敗を語ります。真面目に「あそこで判断ミスしました、次からはしません」なんていうコメントはありません。むしろ、失敗を自慢します。失敗の質によって大賞が決まるのですから。
「ヘイ、俺はこんな失敗をしてやったぜ。お前らにできるか?」
「何よりも、この失敗を起こすのに携わってくれたすべての関係者に感謝です」
そう、失敗なんて、笑い飛ばせばいいのです。
日本の一般企業では社内起業での失敗は出世の道が絶たれ、「失敗した人」とマイナスに評価されがちです。しかし、失敗は必ずしもそんなネガティブな側面ばかりではありません。むしろ「この方法ではうまくいかなかったのだ」と成功への布石だと考えるべきなのです。
複数のアメリカの投資家は、起業家のプレゼンテーションのディテールにはあまり固執しないといいます。事業計画なんて修正されていくし、将来像なんて市場環境でどんどん変わっていく。描いた計画通りに成功する保証なんてない。
これはプレゼンする企画に意味がないということではありません。解決する問題や、ビジョンは大事です。その上で、彼らは、起業家そのものを見ています。この企画は儲かるのかではなく、「この人物は信頼できるのか」です。