2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売になる。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要なマインド・思考・スキル・フレームワークについて解説していく。

ジェフ・ベゾスが起業家に届けた言葉Photo: Adobe Stock

「起業家はリソースフルであるべきだ」
――ジェフ・ベゾス

 出典:https://www.businessinsider.com/jeff-bezos-interview-axel-springer-ceo-amazon-
trump-blue-origin-family-regulation-washington-post-2018-4

 これはジェフ・ベゾスが起業家に届けた言葉だ。私は、これは起業家だけではなく、起業参謀にも当てはまると考えている。

 起業参謀は広く知見を持つべきだ。金槌しか手元にないと釘を打つことしかできない。起業参謀も同様で、もし自分がマーケティングの専門性しか持っていなければ、マーケティングに関することしか示唆を出すことができない。

 その場合、起業家が採用に対して課題感があり相談があったとしても、うまく対応できないだろう。それどころか、話をしているうちに、いつの間にか自分がうまく対応できるマーケティングの話にすり替わっているケースも散見される。

 素直な起業家であれば、真に受けて重要でない課題に取り組むことになり、貴重なリソースを無駄にしてしまう。こういう現象を「賢者の沼地」と呼んでいる。

起業参謀は、十徳ナイフであれ

 一方で、起業参謀に「十徳ナイフ的な知見」があれば、起業家の状況に合わせて、様々な知見/リソースを提供することができる。マクロ/ミクロの行き来、コンセプト/戦略/戦術など様々な視座を行き来しながら、示唆を提供できる。

 起業参謀は、戦略家として着想したりビジョンを掲げたりする力だけでなく、起業家の多様なニーズに応えるために、ヒト、モノ、カネに関する知識・スキルをすべて持ち合わせる必要がある。起業家と壁打ちして行動の量/質を高めていく役割を担っているのだ。

 起業参謀は、スタートアップの事業成長のあらゆる段階において要となる存在だ。

 私はこれまで、数多くのスタートアップ新規事業を支援してきたが、「優れた起業参謀」がいるかどうかが、事業の成否を決める大きな要因となっていると断言できる。

 先ほど十徳ナイフの例を使ったように、起業参謀に求められる知見やスキルは多岐にわたる。本書では、起業参謀に求められる役割/資質/プロセス/フレームワーク等をお伝えしていく。ぜひ、お付き合いいただきたい。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。