アイドルオタクから始まったと言われる「推し」という言葉。その推しを応援する「推し活」も今や一般的になってきた。特に、Z世代(1996~2012年頃生まれ)を中心に「推し活」にお金をかける傾向が強いそう。その理由を探る。※本稿は、廣瀬 涼『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか:Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)の一部を抜粋・編集したものです。
ファンの消費とメンバーの活躍が
ウィン・ウィンの関係を生む
筆者が提唱する「ヒト消費」は、個人の持つ魅力や物語をエンターテインメントとして捉えて消費することを指す。既存の概念でいえば、コラムニストの荒川和久がいう「エモ消費」(エモーショナル消費)が近いかもしれない(注1)。
エモ消費とは、ロジカルには説明できないものの、「心が動く」「心に刺さる」といった、精神的な安定や充足感を求める消費のことを意味する。エモ消費の例として、荒川は、アイドル商法(握手券やイベント参加券などのために同じCDを何枚も購入すること)やクラウドファンディング、オンラインサロン(主に月額会費制のネット上で展開される会員制コミュニティ)などをあげており、自身の消費が役にたっているという自己満足感、大きなものを作成するうえで自身がその一部を担うという達成感、社会的役割を実感することで得られる承認欲求などが消費の動機づけになるとしている。他者支援という視点からみれば、イミ消費の側面もあるといえるかもしれない。
筆者の考えるヒト消費には、(1)応援消費、(2)物語消費の2つの側面がある。
「応援消費」とは、他人を応援することが応援する人自身(消費する人)の効用につながる消費である。
「応援」というと、震災後の被災者支援やコロナ禍の飲食店支援など、他者を支援する側面(イミ消費)を想起する方が多いかもしれないが、ここでいう「応援」とは味方したりひいきにしたりするなど、後援・援助することを指す。昨今でいう「推し活」という言葉がこれに当てはまるだろう。推し活とは、「自身が好きな人(芸能人や声優など)を応援すること」を意味し、「2021ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、一般に浸透してきている。
「推し」という言葉は、1980年代からアイドルオタクを中心に使われていた言葉で、AKBのブーム以後、アイドルグループのなかで特定のメンバーを応援する際や、アニメやマンガなどのキャラクターグッズを購入したり、そのキャラクターの誕生日会を開いたりする際など、嗜好対象に対する愛情表現の1つとして、一般的にも使われるようになってきた。