内定は得ているが、就職活動を継続する学生たち

 売り手有利の状況とともに、ここ数年で進んでいるのが就職活動・採用活動の早期化と長期化だ。その実態について、高村さんは次のように解説する。

高村 先ほど、(就活の)スイッチの入るタイミングが学生によってばらついていると言いましたが、全体的に見れば、25卒は、動き出しがより早まりました。

 例えば、(プレ)エントリーを始めた時期は、3年生の6月までで50%を超え、24卒から10ポイント以上も増加しています。その後、企業セミナー・説明会の参加開始時期、面接開始時期のいずれもが24卒よりも早まっています。

 企業が内定(内々定)を出し始めた時期も全般的に早くなり、特に大手企業では、「(3年の)12月以前」の割合が昨年の8.4%から14.2%に、「3月下旬」が9.0%から14.2%に増加しています。本来、政府の要請では、内定を出すための本選考開始は大学4年の6月からなので、かなり前倒しになっていることが分かります。

高村 長期化については、少し複雑です。学生と企業の接触開始や内定出しが早まり、1人あたりの平均内定社数も増えた結果、6月末時点で「就職先が決まって、就職活動を終了した」学生の割合は24卒の57.8%から25卒は65.0%に増えました。

 一方で、「第一志望の企業に決まった」とする学生の割合は、24卒の65.7%から25卒は63.0%と、若干下がっています。特に「文系男子」は▲7.6ポイント、「理系女子」は▲20.0ポイントとマイナス幅が大きくなっています。さらに、6月末時点で就職活動を継続している学生(25卒全体の30.3%)のうち、「内定は得ているが、納得いくまで就職活動を継続する」という割合は24卒よりも増えています。

 こうした点から、内定や就活終了についての考え方が学生によって多様化していることが伺えます。各数字には、就活をスタートする時期も影響しているでしょう。(プレ)エントリーを(3年の)6月までに始めた学生が5割強、7月以降に始める学生が残り半分です。夏のインターンシップは6月から7月にエントリーすることで初めて参加でき、非参加学生よりも早い時期に選考を受けられる場合もあります。就活についての情報量も経験量も、そして、自らの意識変化も含め、就活を早く始めることでチャンスが広がることは確かです。「売り手有利だから慌てなくてもいいだろう」「通年採用があるから大丈夫」などとのんびり構えていると、後で慌てることになりかねません。

 いわゆる大手企業は、おおむね6月以降に正式な内定を出し始める。そのため、大手企業を志望する学生は、6月以降も就活を続けるケースが多い。そうした傾向もあって、「内定は得ているが、納得するまで就職活動を継続する」という学生が増えているのも、25卒の特徴だ。

 また、内定が取れた場合でも、「2社以上」と「1社だけ」では学生の意識に大きな差があるようだ。

高村 全体的に見ると、調査時点(2024年7月)で8割以上の学生が内定を持っていましたが、受けた企業の多くで内定を取れた学生もいれば、苦戦しながら、1社だけの内定を得た学生もいるのです。

 内定社数は、「6社以上」が13.8%で、昨年より3ポイント増で、平均を押し上げているのは間違いありません。「2社」以上の内定を得た学生は就活のマインドに余裕があり、志望度のより高い企業に挑戦したり、複数の内定の間で迷い続けたりします。それに対し、内定社数が「1社」の学生の割合は、昨年より3ポイント低下したものの、最も多く(24.8%)、内定獲得に苦労したことが推測できます。

 全体として売り手有利であることは間違いありませんが、実態は、二極化ないしは多極化の様相を呈しているのです。