学校教員はじめ、教育関係者にとっては、耳なじみのフレーズである「主体的・対話的な深い学び」――文部科学省によれば、これは、アクティブ・ラーニング(*1)から生まれる学びのあり方だが、企業経営層や人事担当者は、昨今の大学生がどのような学び(アクティブ・ラーニング)を経て社会に出ているのかをあまり把握していないのではないか。アクティブ・ラーニングのひとつであるPBLを授業科目にしている大学が増加傾向にあるが(*2)、その授業内容や目的・成果はどうなっているのか? 産学協働に長らく取り組み、“グローバルなPBL”を展開している万浪靖司さん(静岡産業大学経営学部准教授)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
*1 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)/用語集」で、中央教育審議会は、アクティブ・ラーニングを「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」と定義している。
*2 文部科学省の「令和3年度の大学における教育内容等の改革状況について」では、PBLを「大学と企業等で連携して実施する、企業の問題解決や製品開発等を題材とした授業科目」とし、調査回答した大学の40%以上が、授業において「PBLを実施している」という結果になっている。
企業と大学生を結ぶ「海外研修プログラム」の実施
いまから10年前の2014年・秋、文部科学省は、アクティブ・ラーニングという言葉を用いて、学校教育における、課題発見と解決を行う“主体的・協働的な学習”の必要性を説いた(*3)。その風を受けながら、教育界のムーブメントが起こりつつある頃、万浪さんは、民間企業のビジネスパーソンとして、アクティブ・ラーニングのひとつであるPBL(*4)の推進を行っていた。
*3 文部科学省「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」より。2012年8月、中央教育審議会(文部科学省における審議会)が、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて ~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」のなかで、アクティブ・ラーニングにも触れている。
*4 「PBL」はProject Based Learning(課題解決型学習)・ Problem Based Learning(問題解決型学習)の略称であり、双方の定義は多少異なるが、「HRオンライン」の本稿では、Project Based Learning(課題解決型学習)を指す。
万浪 企業と大学生を結ぶ「海外研修プログラム」を開発し、それを、日本国内の大学と企業に案内していました。さまざまな企業から「お題」をもらい、お題に対して学生が国内と海外で取り組むプログラム――いわば、“ワールドワイドなPBL”です。当時、私は旅行・留学業界にいたので、学生たちが「海外の現場に行って学ぶこと」に主眼を置きました。夏休みなどを利用して、短期で渡航できるアジアの国々などが対象。「お題」をいただくのは、海外の企業、あるいは、海外に拠点がある、グローバルな日本の企業がメインでした。
業種業界を問わず、さまざまな企業がパートナーになっていたようだが、どのような「お題」だったのだろう?
万浪 その企業が直面している課題の解決方法を探るものや新規商品・サービスの創造といったものです。たとえば、集客を減らした宿泊業者が、ホテル内の空き会議室を活用した新たなサービスモデルが作れないか?など。学生が入社したときに実際に向き合うような「お題」です。国内での事前学習と海外でのフィールドワークをセットにしていましたので、グローバル人材の育成という視点から、多くの企業と大学から好評をいただきました。それぞれのプログラムにあらゆる学生が参加し、いまや、その学生たちは社会人になって、“ワールドワイドなPBL”の経験を活かして活躍しているようです。
万浪靖司 Yasushi MANNAMI
静岡産業大学 経営学部准教授
1988年、同志社大学工学部卒、伊藤忠商事株式会社入社。2005年、株式会社アルキカタ・ドット・コムの代表取締役社長として、インターネットによる航空券販売ビジネスの一役を担う。その後、株式会社地球の歩き方T&Eの代表取締役副社長として、海外留学やグローバル人材育成プログラムの開発に取り組み、日本国内の大学へのビジネスマーケット拡大を実現。グローバル人材育成プログラムでは、アジアでの産学連携プログラムを企画運営し、数多くのメンバーを送り出した。現在、静岡産業大学 経営学部准教授として、産学協働教育プログラムや産官学連携研究開発プロジェクトを推進している。