「肥満」「大腸がん」のリスクを高める意外な病気とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

「睡眠の質改善に効果あり」との宣伝文句で乳酸菌飲料が脚光を浴びている。睡眠障害は腸内に変化をもたらし、肥満や大腸がんを引き起こすなど健康に甚大な悪影響を及ぼす要因になるのだという。直感的には腸と睡眠に関係があるようには思えないが、乳酸菌は本当に睡眠の質を改善してくれるのだろうか。本稿は、坪井貴司『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

乳酸菌飲料を飲むと
なぜ快眠が期待できるのか

 最近、「睡眠の質の改善効果が期待できる」といった宣伝文句の乳酸菌飲料などをよく見かけます。近年になり、腸内に存在する腸内マイクロバイオータ(編集部注/腸内に生息する微生物の集合体)が脳腸相関に関わっていることが知られるようになりましたが、直感的には、腸と睡眠に関係があるようには思えません。

 一体どのようなしくみで乳酸菌などの腸内マイクロバイオータが睡眠の質を改善するのでしょうか?腸内マイクロバイオータと睡眠との関係について見ていきましょう。

 まず、睡眠のしくみはどのようになっているのでしょう。私たちは、1日周期で寝たり、起きたりを繰り返します。これは、太陽が沈んで外が暗くなったり、あるいは太陽が昇って外が明るくなったりすることで直接的に引き起こされているわけではありません。陽の光や外気温などの外部環境の影響を受けないよう、外界とのつながりが遮断された実験室で生活をしても、約1日周期の活動や体温のリズムが維持されます。

 このしくみは、体内時計、もしくは、おおむね1日周期のリズムなので概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれ、私たちヒトを含む哺乳類だけでなく、シアノバクテリアや植物にも存在します。

 ヒトを含む哺乳類の概日リズムの周期は約25時間で、1日(24時間)よりも若干長くなっています。そのため私たちの体内には、体内時計の進みを早めて1日24時間の周期に調節するしくみが備わっています。

 では、どのようにして体内時計の時刻合わせが行われているのでしょうか。太陽が昇って、陽の光を眼の網膜で感知すると、その情報は視覚野という視覚を司る脳領域に伝達されます。ただ、光の情報の一部は、脳の視床下部の視交叉上核と呼ばれる部位へ伝えられます。すると、視交叉上核の体内時計(中枢時計と呼ばれます)のリズムが1時間だけ前に進められ、時刻合わせが行われます。

早朝に太陽の光を浴びることで
1日24時間のリズムが完成

 つまり、視交叉上核が概日リズムの中枢で、陽の光が時刻合わせをするための刺激です。

 この概日リズムは、時計遺伝子と呼ばれる数種類の遺伝子のはたらきによって調節されています。時計遺伝子は、視交叉上核だけでなく、肝臓や筋肉、脂肪細胞や腸管などのさまざまな組織の細胞でも機能しています。