ただ、肝臓などの末梢時計は、中枢時計からの制御だけでなく、外界からの刺激によっても時刻合わせが行われます。外界からの刺激とは、食事です。食事によって体内時計が調節されるしくみを紹介しましょう(図2)。
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マウスは夜行性のため、活動が盛んになる夜(暗期)に餌を食べます。一方、昼(明期)では、マウスは眠っています。そこで、いつもは眠っている明期に餌を与えると、肝臓の時計遺伝子の概日リズムが変化して、餌を食べる時刻に概日リズムが同調するようになります。食事の時間によって体内時計が狂ってしまうのです。
食事の時間と体内時計の同調を引き起こす刺激は、餌を食べることによって膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンだと考えられています。じつは、餌に含まれる栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)の種類や量によっても概日リズムへの影響が異なることがわかってきました。
インスリンは、体内に取り込まれた糖質によって、分泌が促されます。糖質の中でも、ジャガイモに含まれる消化性多糖類のデンプンが、肝臓の末梢時計のリズムを強力に変化させることがわかりました。
一方で、同じ糖類であっても難消化性多糖類(食物繊維など)の一種は、インスリンの分泌を引き起こしにくく、末梢時計のリズムを変化させにくかったのです。
腸においても、腸管の表面を覆っている腸管上皮細胞の増殖や腸管バリア機能、また栄養素の吸収にも概日リズムがあります。腸管バリア機能とは、腸管における、食事由来の炎症反応を引き起こす抗原物質や細菌などが血中に入り込まないようにするしくみです。
マウスの糞便を6時間ごとに
回収してわかったこと
マウスの腸管上皮細胞の場合、時計遺伝子がブドウ糖(グルコース)の吸収やペプチドの吸収に関与するタンパク質の産生量を調節しています。具体的には、活動が盛んになる暗期にグルコース吸収に関係するタンパク質が、眠っている時間帯の明期にはペプチドの吸収に関係するタンパク質の産生量が増加することで、暗期にグルコースの吸収が増加し、明期にペプチドの吸収が増加します。
胃の内分泌細胞にも、概日リズムがあります。そのため、時計遺伝子の1つ(Bmal1という遺伝子)が欠損したマウスでは、概日リズムがなく、餌を食べる量の日内変動(1日の中で変動すること)が見られません。