このように、腸管の機能に関係するさまざまな分子に日内変動が起こることから、その腸管の内部、つまり腸管管腔内に存在する腸内マイクロバイオータにも何らかの影響が及んでいるのではないかと考えられるようになったのです。

 腸の機能に日内変動があるということは、腸内マイクロバイオータの組成が1日の間で変動しているということでしょうか?

 マウスの糞便を6時間ごとに回収し、その糞便に含まれる腸内マイクロバイオータの種類を解析したところ、腸管内に存在する乳酸菌の一種であるラクトバチルスロイテリ菌の数が活動期(暗期)に減少していました。一方で、デハロバクテリウム属の細菌が増加していました。

 つまり、腸内マイクロバイオータの組成が日内変動することがわかったのです。それによって、腸内マイクロバイオータが産生する腸内代謝物の種類も日内変動していました。

 ところが、時計遺伝子を欠損しているマウスでは、腸内マイクロバイオータや腸内代謝物の組成に日内変動は見られませんでした。ただし、このマウスに決まった時間に餌を与えると、腸内マイクロバイオータの組成に日内変動が再び見られるようになりました。

睡眠障害は肥満を招き
大腸がんを引き起こすことも

 つまり、摂食という刺激が、腸内マイクロバイオータの組成の日内変動を調節していると考えられます。

 腸内マイクロバイオータの組成が日内変動しているのであれば、睡眠障害が起こると、その組成に影響があるのでしょうか?

 それを調べるために、マウスを用いて、昼夜逆転させ、睡眠障害を起こします。するとこの睡眠障害モデルマウスでは、中枢時計や摂食リズムが乱れていて、腸内マイクロバイオータや腸内代謝物の日内変動も消失し、なぜか肥満することがわかりました。また、腸内マイクロバイオータの中でもクリステンセネラ科の細菌が減少し、フソバクテリア門の細菌が増加しました。

 そこで、痩せているヒトの腸内マイクロバイオータを解析したところ、クリステンセネラ科の細菌が多いことがわかりました。このクリステンセネラ科の細菌を肥満マウスに定着させると、肥満が抑制されたのです。

 つまり、クリステンセネラ科の細菌は、何らかのしくみで代謝を向上させ、肥満を抑制すると考えられます。一方で、ヒトにおいてフソバクテリア門の細菌数の増加は、大腸がんとの関連性があることが示されています。

 これらの結果から、睡眠障害によって腸内マイクロバイオータの組成が乱れ、肥満や大腸がんを引き起こすと考えられている細菌が増加する可能性があることがわかったのです。

 また、この睡眠障害モデルマウスに高脂肪食を与えてみると、健常マウスと比較して、血糖値が上昇しやすく、さらに体重が増加しやすい傾向がありました。この結果からも、メタボリックシンドロームにもなりやすくなるといえます。