筋肉は腸や脳など全身の臓器と
情報をやり取りしていた
プロアスリートは、パフォーマンス向上のため、ハードなトレーニングを行い、食事をしっかり摂っています。
プロラグビー選手と座っている時間の長い一般人との腸内代謝物を比較すると、プロラグビー選手では、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸の糞便中の濃度が有意に高いことが明らかになりました。そのため、運動と腸内マイクロバイオータや腸内代謝物との関連性が考えられるようになり、研究が進められています。そこから、なんと「腸筋相関」があるかもしれないと考えられるようになってきました。
走る、呼吸をする、話すなどの運動は、筋細胞の収縮によって行われています。自分の意思によって動かすことのできる骨格筋は、さまざまな生理活性を持った物質(マイオカインと呼ばれます)を分泌します。骨格筋は、マイオカインを分泌することで腸や脳を含む全身の臓器や組織と情報をやり取りしているようなのです。
マイオカインは、現在までに40種類以上発見されていて、インターロイキン-6(IL-6)もその1つです。炎症を引き起こすサイトカインで、筋肉において、筋細胞の増殖や再生、脂肪の分解などに作用することも知られています。
腸内代謝物は筋肉の機能に
どんな影響を与えるのか
筋肉は運動によって損傷しますが、ある程度のところまでは再生します。この際、筋肉の再生を抑制しているのがミオスタチンと呼ばれる物質です。先ほどのインターロイキン-6とは逆の作用を持ちますが、これも骨格筋から分泌されるマイオカインの1つです。
このミオスタチンは、加齢や女性ホルモンの低下によって増加するため、加齢に伴い筋肉量が減少するサルコペニアを引き起こしていると考えられています。現在では、サルコペニアの治療にミオスタチンの作用を抑える物質が探索されています。
これらのマイオカインは、筋肉に直接作用しますが、腸にも作用するマイオカインが存在していたのです。
マイオカインの中でも、SPARC(secreted protein acidic and rich in cysteine)と呼ばれるものは、骨格筋から分泌されたあと、大腸で発生したがん細胞に作用して、がん細胞を自死(アポトーシスといいます)に導いていることが報告されました。このように、筋肉がマイオカインを介して腸に作用することがわかってきたのです。