詳しいメカニズムはまだ明らかになっていませんが、今後は、腸内マイクロバイオータや腸内代謝物が筋肉の機能にどのような影響を与えるのか、また逆に筋肉が分泌するマイオカインが腸内マイクロバイオータにどのような影響を与えるのかを解明することが必要です。それにより、プロアスリートのパフォーマンス向上だけでなく、健康寿命を延ばすことにもつながるかもしれません。

免疫細胞が過剰に活性化すると
自己免疫疾患の発症も

 ヒトの口腔内に存在している桿菌は、通常は悪さをしませんが、免疫系が弱っている場合や、高齢者や糖尿病患者では、肺炎や気管支炎、膀胱炎などを引き起こすことがあります。この口腔細菌が、炎症性腸疾患や大腸がん患者の糞便で多く検出されるのですが、なぜ口腔細菌が腸管内に存在するのかについては、不明でした。

 炎症性腸疾患の1つである、クローン病の患者の唾液を無菌マウスに経口投与し、腸管の免疫系の細胞にどのような影響を与えるのかが解析されました。その結果、細菌感染の感染防御に重要な役割を担っている免疫細胞(1型ヘルパーT細胞)が顕著に増加したのです。なお、この免疫細胞が過剰に活性化されると、免疫機能が過剰になり、自己免疫疾患の発症につながる可能性があります。

 その後、このクローン病患者の唾液中に含まれている細菌を調べたところ、その細菌の中でも、クレブシエラ属の細菌が免疫細胞の増殖を強く誘導することがわかりました。

 次に、健康な正常マウスにクレブシエラ属の細菌を経口投与しても、腸管内に定着することはありませんでした。一方で、抗菌剤を投与した腸内マイクロバイオータのいないマウスでは、クレブシエラ属の細菌を経口投与すると、それが腸に定着するだけでなく、免疫細胞(1型ヘルパーT細胞)が顕著に増殖しました。

 つまり、腸内マイクロバイオータの組成が乱れた場合にのみ、クレブシエラ属の細菌が定着し、その結果、免疫細胞の増殖が促進されたのです。なお、このクレブシエラ属の細菌は、炎症性腸疾患患者だけでなく、健常者の口腔内にも存在していることから、長期にわたって過剰量の抗菌剤を服用した場合には、健常者でも腸内に定着する可能性もあります。そのため、抗菌剤の服用には注意が必要です。