股裂き状態から婚活まで

 90年代の初めだったろうか、摂食障害の女性たちが口々に訴えていたのは「母の要求は私を股裂き状態にするんです」ということだった。男に伍して競争社会に参入してエリートになれという要求と、結婚・出産という女の幸せを手に入れろという二つの要求が時には二律背反になってしまうことを、母たちはほとんど理解できなかった。

「どうしてでしょうか、それって当たり前のことじゃないですか」とあっけらかんと語る母親たちに会うたびに、食べ吐きを繰り返して痩せていく摂食障害の女性たちの気持ちがわかるような気がしたのである。

 あれから25年以上が過ぎ、一部の女性たちに先鋭化して表現されていた股裂き状態は、婚活という女性の側の積極的行為として読み換えられるようになっている。人生を勝者として生き抜くためには、仕事と結婚、そして妊娠・出産というアイテムをすべて獲得する必要があるのだ。

 結婚とはかつてのような人生のあがりではなく、ゲットすべき最大の駒の一つなのである。そこからは二律背反的股裂き状態という悲劇性はなくなったかに見えるが、果たしてそうだろうか。

 プラス思考でノリのいい婚活と、経済的余裕のある女性の不妊治療への取り組みは、かえって女性内部の格差を明らかにしたように思う。シングルマザーや非正規雇用女性の貧困化はさまざまな媒体によって指摘されているが、彼女たちの中には、経済的依存に伴う母との関係を忌避するためにあえて実家に頼らない選択をする女性も多い。金銭的援助を受けながら親子関係の距離を保つのは至難の業だからだ。