ここで団塊世代が形成した家族について少しふりかえってみよう。1970年代になだれ込むように結婚した彼ら彼女たちの家族はニューファミリーといわれ、専業主婦率がもっとも高く、全世帯において核家族の占める割合も75年には63.9%と最高値を示した。女性たちを結婚へと駆動したのが、何度も触れてきたロマンティック・ラブ・イデオロギー(RLI)である。また子どもの数も二人が基本となり、これが「二人っ子社会」といわれる標準家族像につながっていった。
縄田康光「歴史的に見た日本の人口と家族」(参議院事務局「立法と調査」260号,2006)によれば、江戸末期の都市部の男性有配偶者率は5割前後であり、現代の東京のそれとそれほど変わらない。
また近年顕著な婚姻率の低下から、同論文では「皆婚社会の終わり」を指摘し、次の三つの傾向を挙げている。
(1)結婚するまでは実家を離れないという傾向、
(2)その延長として実家にとどまり続ける未婚者の増加、
(3)結婚した者はゆるやかな直系家族を形成する傾向、である。
(2)と(3)を分かつ要因は経済的条件であり、経済力のある男性は結婚して、夫婦どちらかの実家の周辺に住むことになる。経済力のない男性(女性)は男女ともに実家にとどまり続けることになるのである。
「ゆるやかな」直系家族とは、いずれの場合も、子どもたちが実家の周辺から離れないことを指すのだろう。スープの冷めない距離に息子(娘)夫婦が住み、子どもが生まれれば孫の世話に祖父母がかかわり、頻繁に行き来する。保育所の不足がいっそうこの傾向に拍車をかけている。
こうして日本は一見夫婦単位の家族の外見を保ちつつ、実際は親子関係中心でゆるやかな直系家族の伝統を引き継いでいるように思われる。それに加えて、親世代の経済力が子世代のそれを上回っているという点も重要だ。相対的に豊かな母親と息子(娘)が決定的に独立しないままに近い距離に生活し続ける。これらが母娘という問題系が登場した要因になっているのではないだろうか。