虫のいい要求
母との関係に苦しむ30代の女性たちが決まって口にするエピソードがある。60代の母親が同窓会に出席したあと必ず機嫌が悪くなるのだという。
「友達はみーんな携帯の待ち受け画面が孫の顔なの、男も女もよ……」「もうこれから同窓会に出るのはやめることにしたわ……」こう言って大きなため息をつき、娘の顔を恨めし気に見上げるのだ。
彼女たちはそう語りながら憤懣(ふんまん)やるかたないという顔をする。「だって仕事に男も女もないでしょ、って言ってきたのは母親なんですから」「仕事で頑張っている私を応援するって言ってたのに、ここにきて急に孫の顔が見たいなんて、どうしたらいいんだか」
一流大学に通う娘を誇り、有名企業に就職してバリバリ働く姿を応援してきた母親は、娘の年齢が30歳を超え出産上限年齢に近づくにつれて、微妙にその要求内容を変化させる。専業主婦であるがゆえに味わったみじめさを娘には味わわせまいとして、とにかく経済力をつける、できれば医師・弁護士といった資格を取得するように進路を誘導してきた母たちは、仕事も結婚も、そして孫を出産することも巧妙に強いるのだ。
あからさまな強制ではなく、「母の期待に沿ってあげられない私って駄目な娘だ」「孫の顔も見せてあげられない私って」と娘の自己責任意識を刺激するように行われる。なんて虫のいい要求なんだろうと思いつつも、面と向かうと母には何も言えず、そんな自分に腹が立つ娘たちなのだ。母は若さ以外では、娘をはるかに凌駕しているのだ。