「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学をわかりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
今回は、紀伊國屋書店新宿本店で開催された「『嫌われる勇気』国内300万部突破記念トークイベント」より、本書の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられた様々な「人生の悩み」に回答したQ&Aコーナーの模様をお届けします。「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破するアドラー心理学流の回答を、ぜひ参考にしてみてください。(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)
「課題の分離」という衝撃の教え
Q. アドラー心理学を学び始めた「きっかけ」は何ですか。他の心理学や哲学と比べて、アドラーの思想がどのように魅力的だったのか、個人的な体験とともに教えていただきたいです。(50代・女性)
岸見一郎 私の場合、アドラー心理学を学び始めたきっかけは「子育て」です。私は子育てについて、「両親のやり方を真似すればうまくやれるだろう」と高をくくっていたのですが、それは大間違いでした。
いざ子どもと向き合ったときに、どう接すればいいのか全然わからず、とても悩みました。
そんな中、私が子育てに苦労しているのを見かねた精神科医の友人が、アドラーの『子どもの教育』という本を紹介してくれました。そして、その本を読んで、本当に人生が一変するほどの衝撃を受け、本格的にアドラー心理学を学び始めたのです。
アドラー心理学の思想の中でも、私が特に感銘を受けたのが「課題の分離」という画期的な発想です。これは、身のまわりのトラブルや課題を「その最終的な結末を引き受けるのは誰か」という視点から、自分の課題と他者の課題とに分離したうえで、「他者の課題には踏み込まない」「他者に自分の課題に踏み込ませない」とする考え方です。
これを実践できれば、対人関係の悩みの多くは解決します。なぜなら、あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと――あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること――によって引き起こされるからです。
私が「課題の分離」を子育てにおいて実行したところ、子どもとの関わり方が劇的に変わり、親が子どもに介入しない「健全な関係」を築けました。もちろん、子どもの成長に伴って、様々な問題が起こりましたが、子どもと対等に話し合うことで切り抜けることができました。
私にとって、子育て全体を通じて大きな助けになったのが、アドラー心理学だったのです。
「どう生きていけばいいか」はアドラーが教えてくれた
古賀史健 僕は、自分が20代後半だった1999年に、岸見先生の著書『アドラー心理学入門』という本を書店でたまたま手に取ったのがきっかけです。
タイトルと裏表紙に書いてあった概要を見たときに「アドラーという人物のことを全然知らないな」と思い、何となく買ってみたことをいまだにはっきりと覚えています。
当時の僕は、心理学や現代思想にまつわる書籍を色々読む中で、「自分はこれからどうやって生きていけばいいんだろう」という哲学青年のような悩みを抱えていました。そんな僕に一筋の光を与えてくれたのが、アドラー心理学であり、それを日本に紹介する岸見先生の本だったのです。
一般的な心理療法では、カウンセリングルームで、カウンセラーとクライアントが言葉のやりとりをします。具体的には、現在から過去へとさかのぼりながら、「自分は一体どんな人間なのか」を掘り下げていく作業がメインになります。
それによって、自分自身のことをよりよく知ったり、いまの心の苦しみを引き起こしている過去のある出来事に気づいたりと、ポジティブな発見が生まれます。
しかし、自分という人間をどれだけ深掘りして自己理解が進んでも、それはカウンセリングルームの中のこと。そこから一歩外に出たとき、自分の悩みが解決するとは思えません。なぜなら、アドラーが言うように、人間の悩みはすべて「対人関係の悩み」だからです。
アドラーは、「あなたはどんな人間なのか」を教えるというより、「現実世界や生身の人間と対面したときに、あなたはどうするか」を問いかけてきます。なので、彼の心理学の本質を理解すると、対人関係がガラッと変わるんです。
ちなみに、岸見先生以外の研究者が書いたアドラー関連本も何冊か読んでみましたが、正直なところピンと来ませんでした。僕にとっては、最初に出合ったのが「岸見先生が紹介するアドラーの思想だった」という要素が極めて大きかったですね。
(本稿は、『嫌われる勇気』国内300万部突破記念イベントのダイジェスト記事です)