そんなヒムロック、つまり音楽面では崇敬すべき大先輩であり、なおかつめちゃくちゃ強くて怖い人である氷室氏と向かい合っているTERUさんを見ながら、私はハラハラしていた。「ヒムロック怖そう、TERUさん大丈夫かな」と。

 だがTERUさんは持ち前の人当たりの良さで、氷室氏との会話を朗らかに進めていく。ご自身も超一流のシンガーであるTERUさんが、氷室氏の前では少年のような顔で話しているのが非常にほほえましく、また氷室氏も可愛い後輩を前にして実に楽しそうで、饒舌になっている。見ている私の不安も徐々に薄れてきたそのとき、氷室氏がこんな言葉を口にした。

「TERU君はさ、いい声だよね。俺はさ、いい声じゃないからさ」

 来た!超目上の人の自己卑下である。

 一瞬にして全身がこわばるのを感じながら、私は思った。これは難問だ、と。しかも、「屏風の中の虎を捕まえろ」程度の謎かけとは訳が違う、超難問である。

GLAY・TERUが叩き出した
見事な「Answer」とは

 まず、氷室氏の「俺はいい声じゃない」発言は、私を含むこの世の大多数の人間から見ればおかしな発言だ。だいたい、ヒムロックの声がいい声でないとしたら、「いい声とはいったい何ぞや?」ということになる。

 しかし氷室氏は、ご自身の声についてそのように思っているらしい。つまり氷室氏は「声の良さ」について、平凡な人間には分からない、独自の評価基準および評価軸を持っているのだ。きっとそれは、氷室氏の音楽に対する理念のようなものだろう。よって、「俺はいい声じゃない」発言を安易に否定すると、そういった理念まで否定することになりかねない。

 さらに困ったことに、氷室氏の発言には、TERUさんへの「褒め」も含まれている。つまり氷室氏は、自分を「いい声ではない」と断じたその評価軸で、TERUさんを「いい声だ」と言っているのだ。

 尊敬する人に褒められるというのは、とても有り難いことだ。そしてそれゆえに、「いやいや、そんなことないっすよ~」と否定したり、「そうっすかねえ~」などと軽く受け流すこともできない。なんという袋小路!