さあ、どうするTERUさん!私の不安レベルが最大になったとき、TERUさんはこのように答えた。
![書影『言語学バーリ・トゥード Round1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』(東京大学出版会)](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/5/7/200/img_57d47c31b4d7e2d83e34195ab4f07f00125270.jpg)
川添愛 著
「氷室さんの声は、聞いただけで氷室さんの顔が浮かんできますよね。俺は、歌声を聞いてすぐにその人の顔が浮かぶっていうことが、とても大切だと思うんです」
これがいかに素晴らしい受け答えだったか。それは、これに対して氷室氏が見せた反応に表れていた。氷室氏は、TERUさんの発言を聞きながら、一瞬、深くうなずいたのだ。それは間違いなく、「その側面は考えてなかったけど、確かに大切だな」という反応だった。
つまりTERUさんがやってのけたのは、相手が持ち出してきた「否定も肯定もしづらい評価軸」に対して、また別の新たな評価軸を提示してみせる、ということだったのだ。
私は画面の向こうのTERUさんに向かって拍手喝采していた。そのときは、「TERUさんの対人スキルの高さハンパねえ」と思って感銘を受けていたのだが、後になって何度もこのことを思い出すうちに、これは「スキル」などという表層的なものではないことに思い至った。
TERUさんの受け答えは、氷室氏を心から尊敬し、彼の音楽について普段から深く考えている人間にしかできないものだ。つまり大切なのは、「心」だ。