名古屋銘菓「鯱もなか」が消える!?廃業寸前の老舗和菓子屋が奇跡の復活を遂げたワケ古田憲司 著『鯱もなかの逆襲』(ワン・パブリッシング)
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 既存のしおりのデザインを流用し、空いていたスペースに公式サイトと公式LINEのQRコードを加えただけなので、ほんの少しの修正費以外コストはかかりませんし、製造工程に変更がないため大きな負担もありません。たったこれだけの試みで、「お客様とのご縁が未来に繋がる可能性」を確実に高めることができたのです。

 もうひとつ、LTV向上のための施策を行ったのは、「鯱もなか」の歴史のビジュアル化です。創業から百有余年の間に起こった世の中の出来事とわが社の経営危機など、幾多の困難を乗り越えてきたストーリーをギュッと8ページにまとめてマンガ風の小冊子にしました。

「鯱もなか」というお菓子をきっかけに生まれたお客様とのご縁。そこに、僕たちのストーリーを添えることで、何か共感が生まれるかもしれない。「手土産を探しているときには、鯱もなかを」と思ってもらえるかもしれない。小冊子制作の背景には、そんな期待が込められています。

事前準備5 需要を見越した商品仕様の変更

 「鯱もなか」の商品パッケージにも手を加えました。

 従来のパッケージは、無地の外箱としゃちほこのイラストが描かれた金色の包装紙という組み合わせでした。老舗らしい格調高く豪華絢爛なイメージで、僕もとても気に入っています。

 ただ、「鯱もなか」をよく知らない人にとっては、手に取りづらいデザインなのではないかと思い至りました。中にどんなお菓子が入っているのか、わかりづらいのです。

 そこで、名古屋城の屋根をイメージした和柄に「鯱もなか」の商品写真が載っている新しいパッケージを作りました。

 白を基調とした爽やかなデザインと、包装紙ではなく箱に直接印刷されている点がポイントです。「鯱もなか」の強みであるフォルムをハッキリと見せることで、売店に並ぶたくさんの商品の中でもよく目立つようになったと感じています。事実、パッケージ変更後の売店での売れ行きは1.5倍以上と、順調に伸びていきました。

 なお、本店とオンライン販売分については、従来の金色の包装紙のままにしています。数多くのお土産のなかから「鯱もなか」を選んでもらう必要がある売店の売り場と違って、最初から「鯱もなか」に興味があって店やサイトを訪れているお客様なので、新しいパッケージにする必要性がないからです。

 むしろ、「贈答用にちょうどいい」と、格調高い金色の包装紙を喜んでくださる方が多いこともあり、今後も変えずにいこうと考えています。