廃業を決めた老舗和菓子屋「元祖鯱もなか本店」を継いでからというもの、着々と準備を進めながら「鯱もなか」が日の目を見る機会を虎視眈々と狙っていた専務の古田憲司さん。ある日、お客様の「鯱もなかって、かわいいよね!」という声に、自社商品の魅力に改めて気付いたのです。
鯱もなかは「古くさい?」「かわいい?」
「鯱もなかは古くさい」というのが先代や家族が抱いていた印象であったことは、先ほどお伝えしました。それが、SNSの運用を開始し、少しずつお客様の声が届くようになってから、このような言葉を耳にすることが増えてきました。
「鯱もなかって、かわいいよね!」
僕自身、「鯱もなか」の形のユニークさや名古屋っぽさが全面に表れているところに魅力を感じていたものの、これまで「かわいい」と捉えたことは一度もありませんでした。
最初にこの声を聞いたとき、「はたして、かわいい、のか…!?」と戸惑ったことは事実です。けれども、この視点が「鯱もなか」の売上を伸ばすヒントになるかもしれません。
そこで、「かわいい」と言ってくださった方にリサーチをしてみると、単純に「名古屋城の金のしゃちほこが小さくなったミニチュアである点がかわいい」という意見に加えてもうひとつ、そのフォルムがかわいい、という意見がありました。
「鯱もなか」の見た目のかわいさに関しては、後に登場する名古屋ネタライターの大竹敏之さんが次のように評してくださったことがすべてを物語っていると思います。
「そもそも鯱というのは想像上の生き物で、頭は龍または虎と言われていて、胴体は魚、空に向かってそり返る尾を持つ姿をしています。いわゆる怪獣みたいな見た目なんですよね。デフォルメしようと思えばいくらでもデフォルメできるし、そのままリアルにもできる。
だから、鯱をモチーフにした商品は、すごくリアルなものか、ものすごくファンシーな見た目に変えているかの両極端なんです。
でも鯱もなかは、どちらにも振りすぎておらず、ちょっと愛嬌がある。狙ってかわいくしたわけじゃない感じにもまた心惹かれます。本当に絶妙です」
確かに愛嬌のある顔だとは思っていましたが、こんなにも味わい深く、多くの人に受け入れられるかわいさを持っていたとは思いませんでした。「鯱もなか」のビジュアルに対する率直な感想が聞けたのも、SNSをはじめとした地道な宣伝効果によって、より多くの方に手にしていただけたおかげです。
こうして「鯱もなか」は、僕たち家族だけでは気づくことのなかった「かわいい」という強い武器をいつのまにか手に入れていたのです。