アクション映画のスタントマンたちも変わってきた
――先日、香港映画祭で『スタントマン』のハーバート・リョン監督がおっしゃっていたんですが、谷垣さんは『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』で、日本、中国、香港の3つのスタントマンチームを率いておられたとか。
「そうです。基本的に撮影のコアチームは日本人チームと中国人チームでした。今の香港のスタントマンたちのバックグラウンドは、体操やトランポリンをやっていたとか、中学や高校でちょっと武術をやったという人が多い。でも中国はいまだ武術隊があって、8歳とか9歳ぐらいからそこに入って訓練されてるので、技術的には強いですね。そこも(香港のアクションが)弱体化した一因かもしれません」
――となると、今の香港アクション映画は、実は中国と日本が支えている?
「そういうわけでもなくて、この作品はそういうチーム編成がいいと僕が判断しただけです。日本人のチームは細かいことに目が行き、緻密な作業が得意、中国のチームは大胆でとりあえずなんでも試してみるという感じ。一方、香港のスタントマンはちょっとおとなしい。アクション映画の大作系は中国本土で撮られることが多く、香港で得られる経験値が相対的に少ないことも関係しているのかもしれません。昔は香港のアクション監督が海外で撮るとなれば、少なくとも5、6人位スタントマンを連れて行ったものでしたが、今はスタントマンはほぼ現地で採用します。そうすると、香港のスタントマンは海外の大きな現場で経験を積めない。この作品も本来は広東省で撮る予定だったんですがコロナで駄目になり、香港でセットを組んだんです」
国際化する香港映画の現場
「香港の撮影って、政府があまり協力的じゃないということもありますが、ロケ地やセットの大きさとか人件費や予算も大きく関係しています。香港で(ワイヤーを吊る)クレーンを使うとなったら、「何日使うの?」「ずっと必要なの?」「どう撮るの?」などと製作部が絶対に尋ねてくる。ですが、中国の大型撮影スタジオにはクレーンが常駐していて、アクション部もそれを常に3、4台使えるとか、大きなセットアップが当たり前にできる。毎日そんな現場でやってたら、アクションもそりゃうまくなりますよ。一方で香港はアクションの撮影自体が少ないから、(スタントマンだけじゃなくて)別のことをやりながら生き残っている。だから、本当に好きな人じゃないと続けられないという状況です」
――やっぱりスタントさんの世界は大きく変わってしまったんですね。
「問題は今後また香港の映画産業が盛り上がってきて、いざ大きな撮影をやるぞ、となったときに、もうやれる人がいないなんていう状況があり得ることですね。アクション監督も今は多くが70代とかになっていて、昔のような作家性のあるアクション監督が少なくなっている気がします」