怪しいバイトの話からの
『Z世代化する社会』
――経営学にはどのようにつながっていくのですか。
例えば、日本のイノベーション研究はそういう課題意識で発展してきた面もあります。
私が京都大学大学院時代にお世話になった先生方の共著に『イノベーションの理由』(武石彰、青島矢一、軽部大著、2012年、有斐閣)があります。そこでは、イノベーションを進める時には多くのロジックのぶつかり合いがあり、複雑性が高く、成功できると事前に説明できる理由が皆無に等しい中で、なんとかロジックを調整してイノベーションを前進させていくさまが描かれています。
複雑性を解消する方法は、どうやら決まった方法がなく、ケースバイケースで頑張っていくしかありません。専用的な方法はなく、何か助けになりたければ、その都度コンサルティングするしかない。組織の中の深い文脈を知らないと、なかなか答えは出ないと思います。汎用的な方法を示すという志向と相性が悪い。
拙著の『組織変革論』を読まれた方から、こんな話を聞きました。その方は大企業に中間管理職として勤務されていて、自社に組織変革が必要だと思い、自ら率先して実践していました。今すぐには成果は出ないだろうけど、10年後には意味がある変革だと思っていた。でも、うまくいかない。その過程でありとあらゆる企業の変革の本を読んだけれども、率直な感想は「こんなの、全部やったよ」。そうした経験を経て、私の本には納得したと言われたのです。
「どこにですか」と聞くと、「答えはないと書いてあるところ。それを読んで、やはり答えはないんだと確信した」と言われたのです。
私も無責任だとか無力だと言われかねないのを承知で書いたのですが、結局、答えは一人一人が作るしかないのです。ただし、それをお手伝いするための、考える材料、視角を提示するのが学者である。そういう前提に立って読んで、使っていただきたいという気持ちがあります。拙著が役に立つのはその範疇においてのみです。
――最後に、話題になっている『Z世代化する社会』について伺います。「はじめに」に、「Z世代と呼ばれる若者たちを観察することで、われわれが生きる社会の在り方と変化を展望しようというのが、本書のねらいである」と書かれています。すでに多くの書評や著者インタビュー記事がメディアに掲載されていますので、本書の執筆経緯だけ教えてください。
私の研究は、自分自身の肌感覚とつながる部分が多いです。この本も、私的な原体験として、年下の人たちのことが分からないという思いがありました。
特に私は学生と日々触れ合っているので、「なぜこんなことが起きるのだろうか」とか、「何かおかしいのではないか」と思う期間が長く、軽く10年くらいは考えてきました。
その疑問になんとなく答えが見えてきた頃、直接的な研究のきっかけとなったのは、前職の大学に勤めていた時に、自分のゼミ(ナール)の学生に「怪しいアルバイト」について意見を求められたことでした。今でいう闇バイトとまではいかなくても、マルチ商法みたいなものですね。それに友人が関わっていると。
学生に話を聞き調べていくと、広域の大学にかなり広まっていることが判明したので、真剣に調査し、学会で発表しました。そうしたら、その発表直後に出版社の編集者から「面白いから本として世に出しませんか」とオファーをいただいて書き進めていったというのが執筆の経緯です。
本や論文を書くときはできるだけ、私の生活世界と地続きな問題から始めていきたいという思いがあります。
――『Z世代化する社会』を読むと、かなり多くの若者に対する深い取材をもとにされていることがわかります。その取材の過程やそこで舟津先生が抱く疑問や感想が書かれていて、読者も徐々にZ世代のことや彼らが写像となる社会のことを考えるようになります。その上で、著者の舟津先生のメッセージがあると同時に、読者の考察を促す形の終わり方になっていると読みました(了)。