パワハラ行動の背後にある
子供時代の家庭環境
横山医師は不安を感じながらも、「自分は患者のために一生懸命働いてきた。患者や家族の信頼は絶大であり、私の力で多くの症例がこの病院に集まっている。病院はきっと自分を守ってくれるだろう」と自身に言い聞かせていたそうです。
しかし、査問委員会が開かれ、擁護する人がいる一方で多くの委員から厳しい意見が相次ぎ、進退きわまった状態になりました。
横山医師は絶望しました。長年がんばってきたことが否定されたと感じてうつ病になり、一時期は自殺も考えました。ただ、妻と2人の娘を残して人生を終わらすこともできず、困り果てたのち、私のもとに相談に訪れました。
憔悴した姿を見て、私は「ずっと走りつづけてきたのですから、少し休んでもいいでしょう」と休職のための診断書を書き、抗うつ薬を処方しました。そして、いまは頭を休めるのが仕事だと思って、家でごろごろ寝ているか、こころがリラックスできる行動をとることを勧めました。
少し思考力が回復してきた頃、私は彼の話をじっくり聞くことにしました。
横山医師の父親も著名な外科医だったそうです。一方で家庭内では権威的にふるまい、専業主婦の母親は夫に逆らえなかったと言います。
いまなら「モラハラ」と認定されるでしょうが、「誰のおかげで生活できると思っているんだ」とたびたび口にし、家族を支配していました。母親は穏やかな性格でしたが、父親が帰宅すると、家庭内に緊迫感が漂ったそうです。
横山医師が子供のとき親しかった友達の家は、彼の家とは正反対でした。遊びに行くと友達のお母さんは温かく迎えてくれて、家にいるときのお父さんは冗談を言ったりおどけてみせたりして、家族をなごませていました。ピリピリした雰囲気はなく、横山少年は内心うらやましくてしょうがありませんでした。
欲求を封印することで
こころに及ぼす弊害
その友達から、家族と過ごした楽しい休日について聞いた横山少年は、誕生日に遊園地に連れていってほしいと父親に一度だけ頼んだことがあるそうです。父親は承諾し、横山少年はその日を心待ちにしていました。