若手医師から訴訟され
窮地に陥る天才外科医
20年以上前のことですが、私の研修医時代は横山医師のような態度が問題になることはありませんでした。いまならパワハラと認定され、どんなに医師として優れていても組織では居場所を失うおそれが高いでしょう。そうなったら、その医師は精神的に危機的な状況に陥るのではないでしょうか。
後輩の育成は大切ですし、間違ったことに対しては指導する必要があります。一方で、教育は部下に敬意と愛情をもって行わなくてはなりません。
じつは私にも、医師はあらゆるものを犠牲にして患者やその家族にベストを尽くすべきだと考えた時期がありました。横山医師のようなタイプの医師が尊敬に値すると、あこがれていたのです。
率直なところ、自分にも横山医師と似た側面があったと思います。いまはこころから反省し、改めるように心がけています。そのようなふるまいの多くは、承認欲求など利己的な動機に基づいているからです。
私は横山医師のような人を見ると、「この人は一生懸命、人生の第1ステージ(編集部注/人生において老いや死を強く意識する前の時期のこと)の課題に取り組んでいるんだ」と感じます。
自分が部下ならたまったものではありませんが、第三者の視点に立つと、「僕を認めてよ!」という子供時代からのこころの叫びが聞こえてきます。
こころの奥底にある「傷つき」を想像すると、過去の自分と重ね合わせ、横山医師のような人を愛おしくさえ思えてきます。
横山医師はその後も同じような態度で仕事を続けていました。徐々に社会がハラスメントに対して厳しい対応を行うようになり、以前なら外科医として優秀であるために見逃されてきた横山医師も、だんだん風あたりが強くなっていると感じるようになりました。
それでも彼はいっそう意固地になり、「患者のために妥協するわけにはいかない」と自身の言動を正当化し、態度をあらためませんでした。こうして、徐々に病院内で孤立していきました。
ついに彼は、若手の医師3人からパワハラで訴えられる事態となりました。彼らは横山医師の言動を詳細に記録していました。