昔からあったカスハラへの対策が、ようやく始まった
――3ワードについて、トレンドになった背景や人事担当者が取り組むべきことをお聞きしたいのですが、まず、「カスハラ対策」は、なぜ選ばれたのでしょうか?
「カスハラ(カスタマーハラスメント)」ではなく、「カスハラ対策」であるというところがポイントです。カスハラ自体ははるか昔からありますが、ようやく、その対策がなされるようになりました。大きなきっかけは、2023年9月に労災認定基準にカスハラが追加されるなど、国が対策に動き始めたこと。また、2024年は東京都でカスハラ防止条例が成立し、全国のほかの自治体でも条例を制定する動きが出てきて、さかんに報道されたことから、SNSなどでの言及数が大きくはね上がりました。
さらに現場の状況についていえば、カスハラは、主に接客業の人が被害に遭いやすい問題。コロナ禍が終わり、インバウンドが再び増えたことで、サービス産業の人手不足は深刻化しています。そもそも、人を確保しづらいのに、カスハラを理由に辞める人が出てくるのでは、企業としてはたまったものではありません。人集めにいまほど苦労しなかった時代には無視できていた問題が、もはや看過できない状況になり、多くの企業が対策に本腰を入れるようになったのです。
――カスハラ対策として、具体的にはどのような取り組みがあるのでしょうか?
対策は主に3つあります。1つめは「未然に防ぐ」施策で、暴力行為や迷惑行為に関する注意喚起のポスターを貼る、監視カメラを設置する、セルフレジを導入して従業員と客の接触機会を減らすといったものです。2つめは、トラブルが発生したときの対応を従業員に教育すること。そして、3つめがカスハラに強い組織づくりで、これがいちばん、中長期的な視点を持って取り組まなくてはならない課題です。
そもそも、90年代以降の日本のサービス産業はデフレ経済のなか、最低限の人数と賃金で薄利多売を続けてきたために、カスハラに弱い組織になってしまったという経緯があります。現場の従業員を会社がフォローする体制がなく、カスハラに遭っても、我慢するか辞めるかしかない状態が続いていました。ですから、従業員のケアにかかる手間や経費を削って利益を上げる体質を見直し、カスハラが起きたときに上司や会社が従業員を支えて一緒に対応する体制を構築しない限り、カスハラによる離職に歯止めをかけることは難しいでしょう。
簡単な問題ではありませんが、カスハラ対策をするなら、いまがチャンスです。カスハラ対策は、顧客に対して「こんな人は客とみなさない」というネガティブなメッセージを送ることになるので、1社だけで行うと悪目立ちする側面があります。人事や総務の担当者は、社会的に問題視されているこのタイミングを逃さず、有効な手立てを打っていくことが大切です。