若手・中堅・シニアの“ジョブ・クラフティング”を、企業はどう支援すればよいか

人的資本経営の推進が求められるなか、多くの企業でエンゲージメントの向上が重要課題となっている。その解決手段として、従業員が働きがいを自ら高める“ジョブ・クラフティング”への注目度が高まっている。ジョブ・クラフティングとは何か、企業はジョブ・クラフティングをどのように支援するべきか――2024年6月刊行の書籍『50代からの幸せな働き方 働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』の著者であり、ジョブ・クラフティング研究で著名な高尾義明さん(東京都立大学大学院経営学研究科 教授)に話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/東園 治、撮影/菅沢健治)

「自分をひと匙入れる」ことで仕事の手触り感が変わる

 高尾先生によれば、ジョブ・クラフティングとは、「仕事の中に自分をひと匙入れる」ことで仕事をより良いものにしていく取り組みだという。

高尾 組織の一員である以上、従業員はアサイン(付与)された仕事をきちんと遂行しなければなりません。従業員は自身への仕事の付与をコントロールできませんが、付与された仕事を、自分主導で、より良いものにしていくことは可能です。こうしたアプローチがジョブ・クラフティングです。

 私は、ジョブ・クラフティングを説明する際、「仕事の中に自分をひと匙入れる」という表現をよく用います。この表現は編集者・ライターとして活躍する一田憲子さんの著作(*1)からお借りしたものです。自分の強み・持ち味や自分が大切にしている価値観を、仕事の中にひと匙入れることで自分にとっての仕事の手触り感が変わってくる、仕事と自分の関係が変わってくる、というものです。自分起点での仕事への働きかけとも説明できます。

*1 一田憲子著『「私らしく」働くこと 自分らしく生きる「仕事のカタチ」のつくり方』(マイナビ出版/2015年刊)

 そして、ジョブ・クラフティングは、上司が部下への仕事の割り振りを設計する“ジョブ・デザイン”と補い合う関係にあると、高尾先生は解説する。

高尾 管理職は、「部下のモチベーションを上げるように仕事を割り振ろう」とジョブ・デザインを行います。ジョブ・デザインで部下のモチベーションを上げるためには、上司が部下のモチベーション要因、成長やキャリアに関する考え、強みなどを的確に把握していることが前提となりますが、それには限界があります。仕事が複雑になると同時に、仕事自体も変わっていく今日(こんにち)の状況では、上司による把握がますます難しくなっていくでしょう。そうしたなかで、部下自らが仕事に対して働きかけをすることでモチベーションを維持・向上させるジョブ・クラフティングの必要性が高まっています。ジョブ・デザインとジョブ・クラフティングは補い合う関係――たとえば、上司は部下に仕事を割り振る際に、できる限り、裁量を付与し、部下はその裁量の範囲内で自分なりの工夫をして、やりたいこと、強みなどのひと匙を仕事の中に入れていくという関係なのです。

高尾義明

高尾義明 Yoshiaki TAKAO

東京都立大学 大学院経営学研究科 教授

1967年生まれ。大阪市出身。京都大学教育学部教育社会学科を卒業後、大手素材メーカーに4年間勤務。その後、休職して京都大学大学院経済学研究科修士課程に入学。博士課程への編入試験合格を機に退職し、研究者の道に進む。九州国際大学経済学部専任講師などを経て、2007年4月から東京都立大学(旧名称:首都大学東京)大学院社会科学研究科経営学専攻准教授。09年4月より同教授。18年4月より同大学院経営学研究科教授(現在にいたる)。著書に、『はじめての経営組織論』(有斐閣)、共著に『ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房)、『50代からの幸せな働き方 働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』(ダイヤモンド社)、『組織論の名著30』(筑摩書房)がある。