スキマバイトの広がりがもたらした数十年ぶりの変化
――トレンドワードの2つめ、「スキマバイト」の選定理由を教えてください。
スキマバイトは2023年頃から注目され始め、2024年になって急上昇したわけではないのですが、スポットワークとして比較的短い時間に単発で働くという働き方が広がったことや、非人材系の会社も含めてプラットフォーマーの参入が増えたことに注目しました。スキマバイトはサービス産業がメインで、現場の労働力不足を背景に求人が増えています。
もう1つ特徴に挙げられることは、スキマバイトはスカウトOKなので、常勤のアルバイトや社員として雇うこともできるという点。パート・アルバイトの採用は、求人広告がメインである時代が長く続きましたが、スキマバイトとして働きぶりや適性などを見て、良ければ直接雇用することもできる。働く人にとっても、仕事や職場が自分に合っているかを確認できます。これは数十年ぶりに訪れた採用メディアの変化であり、トレンドとして残そうと考えました。
――スキマバイトに関して、人事が取り組むべきことはありますか?
まず、スキマバイトを受け入れる立場の場合、既存の従業員とスキマバイトの人をそれぞれ管理しなくてはなりません。勤務時間や給与体系、研修制度など、複雑化するマネジメントへの対策を講じることは必須でしょう。
また、自社の社員がどこかでスキマバイトをする場合、総労働時間が労働基準法の上限を超えないように管理することが必要になります。しかし、実務的にはかなり難しいので、副業規程によって、総労働時間が超過する心配のない人に限定して副業を認めるなどの方法で調整していくのが現実的でしょう。もちろん、従業員に報告を徹底してもらうことも大切です。副業は個人の成長につながるメリットがあり、希望する人もかなりいるように感じますので、企業側もただ禁止するのではなく、ポジティブに対応していくほうがよいのではないかと思います。
――3つめの「オフボーディング」の話に移りますが、この言葉を取り上げたのはどうしてでしょうか?
最初にも触れましたが、退職や離職にまつわる複数のトレンドワードが時期を同じくして出てきたため、それらをまとめて「オフボーディング」と表現しました。新入社員を迎える際のオンボーディングに対して、離職する従業員をどうケアしていくか、という領域です。このなかで特に注目度が高いのが、「コーポレート・アルムナイ」です。5年前にわれわれが調査したとき(*2)はまだそれほど認知されていませんでしたが、再入社制度を見直すなどの動きが広がり、よく知られる言葉になりました。
それから、「退職代行サービス」は、事業者・利用者ともに伸びていて、辞め方のひとつとして定着してきたといえます。このほか、流行(はや)ったというほどではありませんが、相談なしに突然辞める「サイレント退職」、退職はしないけれど、積極的に関わる気もなく最低限の仕事だけをしている「静かな退職」といった言葉も2024年によく聞かれました。転職率はそれほど上がっていないのですが、総じて労働者の長期安定雇用への期待感が薄れ、企業と社員の関係が変わってきたことがうかがえます。