離職者の価値に、企業が気づいて動き始めた

――企業が離職する従業員へのケアを意識するようになったことには、どのような背景があるのでしょうか?

「コーポレート・アルムナイ」として、離職者とつながりを保つ企業が増えているのは、優秀な人に再び入社してもらう機会を作るといった人材確保が目的のひとつです。もともと、再入社制度は出産・育児や介護で離職する女性を念頭にしたものでしたが、男性もさまざまな事情で離職することはありますし、別の会社で働いて、また戻ってくることを良しとする価値観の変化もあって、再入社を広く受け入れる流れが生まれています。そして、以前なら離職者と個人的に付き合いを続けている社員を通じて連絡していたのを、会社がオフィシャルに受け皿作りをするようになったという点が最近の特徴です。

 しかし、コーポレート・アルムナイの利点はこれだけではありません。離職者は在籍していた会社のことをいろいろなところで話すので、ブランディングにもつながります。逆に、口コミサイトにネガティブな情報を書き込むのもたいてい離職者なので、辞めた後も良い関係を築いていけば、実像と違うマイナスイメージが広がるのを抑えることもできます。

 さらに、離職者が今度は顧客となって、転職先の企業から仕事を発注してくるようなパターンも、昔からよくある話です。また、外に出ると会社のことが客観的によく見えるようになるので、アンケート調査などをする際にも、離職者の声は有用でしょう。このような、いままで見過ごされてきた離職者の価値に企業が気づいて、動き始めたということです。

――コーポレート・アルムナイが注目される一方で、退職代行サービスも伸びているとのことですが、そもそも辞める人を出さない対策もあるのでしょうか?

 なかなか難しいでしょうね。日本人が会社を辞めるときの理由は、「上司とそりが合わない」などの人間関係によるものが大半です。しかも、離職時には本音を言わず、表向きに別の理由を語る人がほとんど。退職代行が流行(はや)るのも、ここに関係しています。

 日本人は関係調整能力が非常に高く、内輪の和を重視します。会社を辞めるのは、その和を自ら乱すことになるので、退職を言い出すコミュニケーションコストが高くつきます。だから、退職代行に頼りたくなるし、実際にサービスが流行(はや)る結果になっているのです。このような国はほかにありません。

 しかし、内輪の和があるからこそ、コーポレート・アルムナイのような取り組みが機能しやすい面もあります。そりの合わない人が一部いたとしても、ほかの社員との信頼の蓄積は残るからです。この和をうまく活かせれば、有効な手立てを講じることができるでしょう。

 退職代行サービスを使われてしまったときに、人事としてできることは少ないですが、もし、自社の離職者が多い状況であれば、離職者面談を現場の上司任せにせず、直接、人事担当者が当人からヒアリングする、離職者調査を行うといった、オフボーディングの見直しが必要かもしれません。