2024~2025年の“トレンドワード”に見る、いま、人事担当者が行うべきこと

企業の人事担当者に向けて、意思決定に役立つ情報発信を続けるパーソル総合研究所では、2022年から毎年12月に「人事トレンドワード」を発表している。過去2回は、パンデミックの影響を受けた働き方や価値観の変化、デジタルトランスフォーメーション(DX)や生成AIなどに関連したワードが並んだが、3回目となる2024~2025年のトレンドワードには「カスハラ対策」「スキマバイト」「オフボーディング」の3つが選ばれた(1)。こうしたトレンドワードが生まれた背景は何か? そして、人事担当者はどのように受け止め、施策に活かすべきか? 「人事トレンドワード」企画の発案者でワード選考の責任者を務める同研究所の上席主任研究員・小林祐児さんに話を聞いた。(構成/アーク・コミュニケーションズ・阿部加寿世、ダイヤモンド社・人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*1 パーソル総合研究所『HITO』vol.23「人事トレンドワード2024-2025」

振り回されがちなトレンドを、人事の現場で役立つものに

――毎年、「人事トレンドワード」を選定・公表していることのねらいを教えてください。

 いちばんの目的は、トレンドを記録して、振り返りの機会を作ることです。なぜなら、人事担当者にせよ、経営者にせよ、トレンドに振り回されていることがあまりに多いからです。

 また、全体像や客観性抜きになんとなく論じられている偏ったトレンドも存在しますし、評論家タイプの人たちの揶揄の標的にされることも少なくありません。

 さらに、流行(はや)りに乗って、人事施策を導入したものの、一過性で終わっているケースも多々見受けられます。たとえば、働き方改革で「水曜日をノー残業デーに」というルールを作ったけれど、忙しい日が重なるなどして形骸化し、そのうち、人事担当者も変わって、効果検証の機会がないまま、忘れ去られていくようなパターンです。

 この、振り回されがち・偏りがち・揶揄されがち・忘れ去られがちという状況を続けるのではなく、きちんと記録して、現場の実践につながる情報発信をしようと始めたのが、「人事トレンドワード」の選定と公表です。人事担当の方々には、これらのワードを「世の中はいまこうなっている。だから、自社でもこういうことをしましょう」と経営者に提案するための材料として、活用してもらえたらと思っています。

――「人事トレンドワード」はどのように選んでいるのでしょうか?

 さまざまな専門家や人事担当者の意見を聞くほか、働くことにまつわるSNSの投稿やブログ、ウェブ記事のコメント欄といった膨大なデータを集め、労働者側の感覚もピックアップしています。ただし、単語の言及数だけで見ると、「転職」などが常に1位になってしまうので、増加率に注目しています。あるワードの言及数が急上昇するときは、不祥事や法改正、選挙の公約などがきっかけになることが多いのですが、世間の耳目を集めた言葉・トピックと、専門家や人事の声を総合的に検討しています。

 2024年から2025年に残すべきトレンドワードとして選出したのは、「カスハラ対策」「スキマバイト」「オフボーディング」の3ワードです。「オフボーディング」だけは、「コーポレート・アルムナイ」や「退職代行」といった、退職にまつわる複数のワードを含む広い概念として使っています。3つのワードのいずれを取っても、ここ数年の労働力不足や企業の求心力低下を反映する結果になったと捉えています。

株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員 小林祐児さん

小林祐児 Yuji KOBAYASHI

株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員

上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)、『転職学』(KADOKAWA)など。