アルムナイ構築にいち早く取り組むことで、将来のチャンスが広がる

――オフボーディングに関して、人事担当者が取り組むべきことを教えてください。

 先ほどもお話ししたとおり、労働者側は長期安定雇用への期待が薄れて、離職に対する考え方が変わってきています。それでもやはり、収入は安定していたほうがよいので、実際に辞める人は大きく増えてはいませんが、「何かあったらすぐ辞められるように」と、入社直後に転職サイトに登録することは当たり前。常に「(結婚した企業との)離婚届」を片手に持ったような状態で働いている人がとても多く、気苦労が絶えない人事担当者も多いのではないでしょうか。

 そんななか、コーポレート・アルムナイを構築して、社員に対して「辞めても良い関係を築いていきましょう」という姿勢を示すことはひとつの策だと思います。アルムナイだけですべてが解決できるわけではありませんが、突然に退職代行サービスを使われてあたふたするよりは、ソフトランディングできる道筋を描いておくことは重要です。それに、離職者はどのみち毎年いるものなので、アルムナイ構築には早く取り組んで、良い関係を蓄積していったほうが、将来の再入社やブランディングなどのチャンスも広がります。

 アルムナイを巡っては、再入社時の評価制度も一緒に整備すべきだという点も強調したいです。ありがちなのが、再入社者を辞めたときと(給与・役職が)同じランクか、それよりも低いランクからスタートさせるパターンですが、これは公平性がないばかりか、関係がこじれる原因にもなりかねません。再入社だと、入社面接なども適当になってしまうケースがありますが、離職していた間の経験・成長をもとに、市場価値に見合ったオファーをし、きちんと話し合っておくことが成功の鍵となります。

――小林さんは、今回の3つのトレンドワードが注目された背景には、企業の求心力の低下もあるとおっしゃいましたが、低下を防ぐためにできることはあるのでしょうか?

 求心力の低下は長期的な傾向なので、2024年に限らず、2025年以降もその影響が出てくるのではないかと思います。これに関して、私がいちばんの問題だと思っているのは、目標管理制度(MBO)です。本来は企業の方針と社員が目指したい方向性を擦り合わせ、一人ひとりに具体的な目標を立てて、上司がフィードバックしながら成長を促す仕組みだったはずなのに、MBOが人件費配分の言い訳に使われ、社員のやる気をかえって奪う状況も生まれています。また、働きが悪い社員に対してネガティブなフィードバックをすることもできず、めちゃくちゃな状況になっている企業が目につきます。ジョブ型雇用であったとしても、今期に何をやるかはMBOによって決まるため、雇用方法やその他の要素を論じる前に、MBOを見直さない限り、状況は変わらないでしょう。