歯科用フッ素に対して不安が広まっています。水道水から有害な有機フッ素化合物が検出されたことを基にSNSでさまざまな見解がなされています。しかし結論から言うと、PFASと歯科用フッ素は完全な別物です。その決定的な違いとは何でしょうか?なぜフッ素が虫歯予防になるのか、期待できる三つの効果について詳しく解説します。また、親御さん向けに3歳と6歳では異なる「知っておきたい歯磨き粉の適正量」ついてもお伝えします。(医療法人社団アスクラピア 統括院長 永田浩司)
歯科用フッ素の利用を心配する声が
なぜ最近になって増えているのか
小児歯科で虫歯予防のために塗布するフッ素について、以前から「本当に効果があるのか」「安全なのか」など、使用に懐疑的な保護者は一定数いました。私はその都度、フッ素を塗ることによる虫歯(齲蝕)予防のエビデンスレベルは高いこと、ただし、虫歯を抑制する効果は弱く、あくまで虫歯になってない歯を強化して虫歯になりにくくするためのものであることを説明してきました。
この歯科用フッ素について、最近また聞かれることが多くなっています。水道水から、有害とされる有機フッ素化合物「PFAS」が基準値を超えて検出されたことが報道され、それを基にSNSでさまざまな見解がなされているのがきっかけのようです。「歯磨き粉に入っているフッ素は大丈夫なのか?」「PFASとは違うものなのか?」などと質問される人が増えています。
PFASと歯科用フッ素は完全な別物!
決定的な違いとは?
結論から言うと、PFASと、歯科で塗布するフッ素や歯磨き粉のフッ素は、全く異なる物質です。PFASとは有機フッ素化合物のうち、「ペルフルオロアルキル化合物」「ポリフルオロアルキル化合物」の総称で、1万種類以上の物質があります。全てが有害というわけではありません。
水道水から検出されて問題になっているのは、PFAS の中のPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)です。PFOSはメッキ処理剤、PFOAは撥水剤や界面活性剤などに使用されてきました。難分解性(分解されにくい)、高蓄積性(体内に蓄積されやすい)、長距離移動性(環境中で分解されにくく、遠い国まで影響する)という性質があり、発がん性、ホルモンバランスの乱れ、免疫機能への影響が指摘されています。
一方、歯に使うフッ素は、正しくは「フッ化ナトリウム」といいます。PFASが「有機フッ素化合物」で自然界には存在しないのに対して、歯科用のフッ素は「無機フッ素化合物」という名称で自然界にも存在します。
日本小児歯科学会でも2023年3月、本件について提言を出しています。
◆https://www.jspd.or.jp/recommendation/pdf/202303.pdf
フッ素に不安を感じている人は、有機物と無機物という違いがあること、歯科のフッ素は有害ではないこと、むしろ口腔内の健康につながることを知ってほしいです。