夫婦関係の解消を一切望まずに不倫をする場合、その不倫が不倫でなくなる場合が少しでも想定されるならば、その不倫は不倫としては失格であると考えるべきなのだ。そしてその不倫相手との関係は諦めるか、すでにある婚姻関係を一度リセットしてから改めてデートに誘えばいい。
逆にいうと、結婚パートナーを維持しながら不倫をする資格があるのは、夫婦関係を良好に保ち、その関係を絶対に守り抜くという気概がある人のみであって、夫婦関係の悪さを別の関係によって補おうとする態度は、リスクが高すぎるだけでなく、関係のない人にまで余計な痛みをばら撒き、自分の情けなさを露呈し、修復可能であった夫婦関係を台無しにする、愚かな行為だとも言える。
鈴木涼美 著
いくら甘美なものであっても、不倫は不倫のままにそこに置いておく潔さがなくては、嗜みとしての不倫には向かない。
逆に、昨今の世の中で支配的にまかり通っている、「不倫はダメ」という標語は、そういった状況を少なからず予想するからこそ、力強く囁かれるとも言えるわけで、命をかけて夫婦関係を守り、その夫婦の幸福を守り、その上で、甘美な束の間の休息を極上の相手と作り上げることができれば、そのようなつまらない標語をはねのけてしまえる気もする。
薬物や売春が「被害者なき犯罪」と言われるとしたら、不倫は「被害者が傷つくからこその犯罪」なのであって、被害者をなくしてしまえば、その奇妙なバランスを糾弾する外野など、余計なお世話以外の何物でもない。