日大事業部の解散により
業者と学部の癒着が復活の可能性
「大学が出入り業者との取引を管理する日大事業部のような会社は、たいていどの私大にもあります。日大の場合、過去、それぞれの学部で事務局が業者と組んで取引していて、業者との癒着ぶりが目にあまっていました。そのため、田中理事長が大学本部で取引を一本化して管理しようとした。そんな側面もあります。そこを井ノ口らにいいように操られて背任事件の舞台になってしまった。それはそれで問題です。しかし、とどのつまり林改革は元に戻ったという話になります。それで、業者と学部という以前の癒着が復活するのではないか、と心ある職員たちは心配しているのです」(前出の幹部職員)
その林が取り組んだもう一つの改革が、OB組織である校友会と大学幹部職員の人事異動だった。わけても学内では、各学部の事務方トップとして出入り業者の利権を握ってきた23年の5月10日付の事務局長総入れ替えが話題を呼んだ。
名目上は理工学部の山中晴之事務局長の定年退職に伴う人事異動だったが、異動を命じられた幹部職員は実に43人に上る。この大人事の中心が16学部の事務局長人事だったのである。日大幹部職員が解説する。
「これまで各学部の事務方トップである事務局長人事は田中元理事長の専権案件であり、そこに手を突っ込んで事務局長を総入れ替えすることにより、『時代は変わったんだよ』と学内向けにメッセージを発した。それが林執行部の主眼だと思います」
しかし、これもまた学内で不評だった。ベテランの事務局長はそれぞれの業務に精通し、学部の運営がスムーズに行われていた側面もある。いきなりの大異動により、学内はむしろ混乱した。肝心な業務に支障を来たすのではないか、と懸念する声があ上がったのである。
そんな矢先の同年8月、日大の林執行部をアメフト部の薬物事件が襲った。そこからの迷走ぶりは拙著『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(東洋経済新報社)に譲るが、事件の処理は今なお続いている。
そんな日大では、学内はもとよりOBに至る関係者が25年1月1日付の元旦幹部人事に驚いている。それが井上由大歯学部事務局次長の事務局長への昇格である。
「林真理子理事長は何を考えているのでしょうか。よりによってあの薬物事件におけるA級戦犯を復権させるとは……」
複数の関係者が口をそろえてそう非難している。それもそのはずだ。くだんの井上は昨年まで日大の主要な運動部を統括してきた競技スポーツ部(現競技スポーツセンター)の部長だった人物であり、例のアメフト部員が引き起こした薬物事件の対応で大失態をやらかした。文字通り事件の中心人物なのである。
薬物事件については『魔窟』にも詳しく書いている。現在の日大迷走の始まりといっていい。
事件の発覚は23年8月にさかのぼる。7月にアメフト部の寮で発見された大麻や覚醒剤について、取材に訪れた報道陣に対し、あろうことか理事長の林真理子が8月2日、「違法な薬物など見つかっていません」と全面否定した。そのうそがすぐにばれ、大麻不法所持などの疑いで3年生の部員が逮捕される。そこから薬物汚染の実態が明るみに出ていった。