
奥窪優木 著
何より気になったのは財布とともに購入したカバンのことである。財布と同じブランドで、並べて陳列されていたことを考えると、おそらく出品者も同じだろう。とすればカバンも偽物である可能性が高い。そちらの購入者からは、すでに「良い」の受け取り評価を受けており、偽物だったという報告も届いていなかった。しかし、被害届を出せば、カバンの真贋についても警察は調べることになるだろう。偽物だった場合、購入者への返金を迫られるはずだ……。
Sは「波風を立てるのはやめよう」と心に決めた。もちろん購入者からクレームが入れば、すぐに返金対応をするつもりだ。ただ現時点では、カバンは偽物だったと確定したわけではないし、確認する方法もない。「俺は善意の第三者だ」と自分に言い聞かせた。
一方で、「勝ち組」が住まうタワマン街のバザーで偽物をつかまされた皮肉に、苦笑いが込み上げていた。金持ちたちの虚飾の一端を垣間見た気分だった。