ここで勘違いして欲しくないのは、自衛とは「人と余計なトラブルを起こさない」とか「嫌な人は無視しちゃおう」という考えではないということです。
たしかに、このように考えることは非常に大切である一方、不条理な要求などには毅然とした態度で相手に接しなくてはいけません。
なぜなら、自分が下手に出ることで問題を収束させたとしても、トラブルを起こした相手が「この方法ならイケるぞ」と味を占めることもあるからです。
あなたが下手に出たことによって、調子に乗った相手が、今度は、別の誰かと似たようなトラブルを頻発させることもあります。
そして結果的に、自分が被害者を増やしてしまうこともあるのです。
実際に、戦いを避けて譲歩したことで、かえって大きな代償を払うことになったという教訓は、世界各地にたくさん残されています。
ズデーテン割譲に学ぶ
譲歩が招く危険とは
たとえば、1938年にナチスドイツが行った「ズデーテン割譲」が挙げられます。
この事件は、ヒトラーがチェコスロバキアにあるズデーテン地方を「ドイツ人居住者が多い」という理由で、チェコスロバキアや各国に圧力をかけた際、「大規模な戦争は回避したい」と考えたイギリスの首相ネヴィル=チェンバレンが主導し、ミュンヘン会談でヒトラーの要求を受け入れ、チェコスロバキアの意思とは関係なく、ズデーデン地方がドイツに割譲されたという出来事です。
このように戦いを避けて譲歩したことによって、ナチスドイツは勢いを増し、さらなる領土獲得の野心を抱くようになっていき、最終的にはナチスドイツはポーランドにも侵攻を行い、第2次世界大戦へと発展していってしまうのです。
私が在籍していた防衛大学校で行われる「防衛学」の講義では、このズデーテン割譲はテーマとしてよく取り上げられます。
こうして、防衛大生は「譲歩という手段で戦いを避けると、かえって戦火が拡大することもある」という教訓を基礎として学ぶのです。
この話は、人間関係にも当てはまると思います。
もちろん「自分が悪い」こともあるので、謝罪が必要なときはあります。
しかし、「不条理だ」「ありえない」と思ったときには、1度立ち止まって考えましょう。
すぐに謝ることは大切ですが、こうした場合には、毅然とした態度を取るほうが身を守ることにつながることもあります。